ショルダープレスはもう古い。科学が証明した“新しい肩トレ”

ショルダープレス、サイドレイズ、リアレイズ──肩トレの定番ですよね。でも、最新の研究では「これ、もう古い」と言われ始めています。
いくらやっても肩が丸くならない。横幅が出ない。その原因の多くは、“肩の前側ばかり”を刺激しているから。最新の筋電図では、従来の肩トレは前部優位になりがちだと示されています。
つまり、あなたの努力不足ではなく“刺激の方向”が間違っていただけ。
今日は、最新研究に基づく「新しい肩の鍛え方」を科学的に解説します。
解剖学的な肩

最初は肩にある筋肉がどういったものか紹介します。もう知っている人もいるかもしれませんが、実は最近の研究で多くのことがわかっています。あなたの常識が変わるかもしれません。
三角筋は、肩関節を球状に包み込む大きな筋肉です。
「肩って小さいでしょ?」と思われがちですが、上半身でも存在感が大きく、外見に影響が出やすい筋群です。だから、肩を仕上げるとシルエットが一気に変わります。
三角筋は「前・中・後」の3つ──そう思っていませんか?
2011年の日本の研究では、三角筋は3つではなく“7つ”に分かれることが示されました(概要欄に論文URL)。
つまり、肩はひとつの動きでも複数の区域が働く“複雑な筋肉”です。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21118198/
肩の前側についている前部は屈曲、外転、そして水平内転に関わる筋肉です。中部は外転、屈曲、水平外転を担っています。最後の後部は伸展と水平外転です。
基本的には前部は腕を前に出す。中部は横に出す。後部は後ろに引くと考えてもらえればOKですが、解剖学的な役割が重複していることに注意してください。例えば肩関節の屈曲は前部と中部、水平外転は中部と後部が働きます。これは筋肉の活動を調べた研究でも明らかです。
だからこそ、同じ筋肉を連続で狙うジャイアントセットは疲労が干渉しやすい。
例えばフロントレイズ直後のサイドレイズは、中部がすでに疲れた状態で筋損傷、VOL低下の観点からも効率が落ちやすいんです。
※VOL=総トレーニング量、の観点でも非効率になりがち。
肩を鍛える人は「丸みを出すために前部中部後部をバランスよく鍛えよう」と考えますが、その方法では丸い肩を作れません。次のチャプターでは最新研究からわかった新しい肩の鍛え方を紹介していきます。
肩トレの限界
ショルダープレスは三角筋の前部と中部を鍛えることができますが、最も強い刺激が入るのは前部です。実は肩が成長しないと悩んでいたり、丸みがつかないと悩んでいる人の多くは前部を鍛えすぎている傾向にあります。
三角筋の前部が成長しすぎている理由について研究者のMenno henselmans博士は次のように解説しています。
なぜ多くの人は前部を鍛えすぎているのか。これは大胸筋トレーニングとサイドレイズ中のミスによって負荷を前部に逃がしていることが原因です。まず、大胸筋トレーニング、特にインクラインのプレスでは三角筋の前部の活動はかなり高いです。
ある研究データではベンチプレス中、三角筋の前部は上腕三頭筋よりもはるかに高い筋活動を示しており、ベンチ角度を上げれば上げるほどその活動が高くなっていることがわかっています。
三角筋前部が過剰発達しやすい理由は、**胸トレ(特にインクライン)と肩のプレス系の“合算”**にあります(解説:Menno Henselmans)。ベンチ角度を上げるほど前部の活動は上がる。
そこに肩トレとしてショルダープレスを重ねると、前部だけをさらに強化してしまう。
ただ、これは後部にも当てはまります。三角筋の後部は腕を後ろに引く伸展や水平外転によって働くため、懸垂やロウなどの背中トレーニングでも刺激されます。しかし、背中のトレーニングは大胸筋トレーニングほど肩を鍛えるのに理想的ではありません。
近年の科学的なデータでは筋肉の成長を最大化させるために3つの要素が必要であることがわかっています。まずは適切なテンポ、そして刺激を狙った筋肉に集中させること。最後は筋肉が最大まで伸びる可動域を採用することです。
例えば大胸筋を鍛えるダンベルフライやダンベルプレスでは大胸筋を伸ばすのと同時に三角筋の前部もストレッチします。しかし、背中トレーニングではどうでしょうか。背中のトレーニングではほとんどの場合腕が前に出た状態から引っ張ります。ただ、三角筋後部のストレッチポジションは腕が交差するような位置にあるため、腕を前に出す位置では不十分です。
そしてもうひとつはサイドレイズ中のミスによって負荷を前部に逃がしていること。先ほど紹介した3つの要素を思い出してください。テンポ、ストレッチ、そして非標的筋の関与を最小限。つまり狙った筋肉以外に負荷を逃がさない。
実はサイドレイズでは三角筋の中部に負荷を集中させるためにあることをしなければなりません。
サイドレイズで多いミスは2つ。①ヒジを曲げる ②腕を前に出すこの2つをやると、中部ではなく前部に負荷が逃げます。中部を狙うなら、ヒジは伸ばし、腕は真横です。
最新の研究では、腕を前に出したりヒジを曲げすぎると、負荷が中部ではなく“前部”に逃げてしまうことがわかりました。menno henselmans博士は肩を痛めている場合を除き腕を曲げて前に出すのは間違いで、これをすることで三角筋中部ではなく前部を鍛えていると指摘しています。
三角筋中部を鍛えるときサイドレイズではヒジを伸ばして腕を真横に上げる必要があります。少なくとも断言できることはヒジを曲げたり、腕を前に出すメリットはひとつもないということです。解剖学的にも腕を前に出し屈曲をすれば前部が働くのは当然です。
肩が成長しない、丸くならないという人は中部や後部よりも前部が成長しすぎている傾向にあります。その原因は前部を鍛えすぎていることとサイドレイズ中に前部に負荷を逃がしていることです。
それではここから肩をデカくするためにどういったことをすればいいのかについて具体的に解説していきます。
科学的肩トレ
それではどうすれば肩全体を鍛えることが出来るのか。最新の研究によると刺激の”方向”を変えるだけで三角筋全体の成長が大きく高まることがわかっています。そのために意識するべきポイントは3つです。
優先順位
まず肩を効率的に成長させたいとき優先順位というものをつけましょう。例えば鍛えても成長しにくい筋肉だったり非常に小さくデカくしても外見的な変化を感じづらい筋肉をたくさん鍛えてもなかなか結果は出ません。
考慮するべきは、「外見的にどれくらい重要か」と「どれくらい成長しやすいか」です。
研究者のmilo wolf博士は三角筋の重要度について次のように解説しています。
まず肩で最も重要なのは間違いなく三角筋の中部です。この部位は肩の丸みを作るうえで最も重要で大胸筋や背中トレーニングでも働いてはいますが、筋肥大させるための刺激量には明らかに不足しています。
そのため、まずは中部を成長させることを第一に考えましょう。前部と後部に関しては大胸筋トレーニングや背中トレーニングでも鍛えられてはいますが、背中トレーニングでは後部がストレッチしないため、前部よりも後部のほうが成長は遅れやすいです。
つまり優先度は中部、後部、前部です。スポーツサイエンティストのmike israetel博士は三角筋の中では中部が最も重要でトレーニングするときは肩トレの70~90%を中部に充てることを推奨しています。
パーカーフィットネスのおすすめとしては前部については個別に鍛える必要はないです。大胸筋トレーニングで十分ですし、仮に前部を「前部が遅れてきたり」「もっと成長させたい」と感じたらトレーニングすればいいだけです。そこからスタートしても全く遅くはありません。
肩トレを10セットやるなら──7〜8セットは中部。残りは後部に使いましょう。つまり、6〜8割を中部に集中させるイメージです。
安全性
当然かもしれませんが、肩を安全に鍛えることは最も重要です。実はある調査によると肩はウエイトトレーニング中最もケガしやすい部位であることがわかっています。この科学的文献ではウエイトトレーニングで発生するケガの36%は肩で起こっているようです。
実際、この動画を観ている方の中でも「肩トレで肩痛めたことある」「今肩痛くて悩んでる」という人もいると思います。
肩に限らず安全に筋肉を鍛えるときに重要になるのは軽い重量で筋肉に負荷を入れることです。
肩はウエイトトレでケガ率が高い部位。1RMの70%以下(≒12回限界)を基準に、痛みゼロのフォームを最優先にしましょう。高重量でのチーティングは中部への刺激が薄くなり、本末転倒です。
ストレッチ
先ほども紹介しましたが、筋肉の成長には筋肉を最大まで伸ばすこと、そして伸びた位置で負荷がかかるコトが重要です。例えばショルダープレスで十分ダンベルを下まで下げていないと三角筋の前部が伸びないためトレーニング効率が下がります。
そしてもうひとつ、ダンベルサイドレイズのようにストレッチポジションでそもそも負荷がないという場合もあります。この種目は腕を下げたときに重力と同じ下向きにしか負荷がかかりませんが、三角筋中部にとってストレッチポジションで必要なのは横向きの負荷です。
ストレッチポジション──筋肉が一番伸びた場所で負荷をかけるには、ケーブルを使うか、ダンベルなら“寝て”行うのが効果的です。
科学的に最高の肩トレは優先順位を作って、低負荷で鍛えること。低負荷というと高回数をイメージされると思いますが、そうではなくて軽い負荷で強い刺激を入れるということです。軽いダンベルであっても正しいフォームでやれば5回持ち上げるのが限界という強い刺激を入れられます。
そしてストレッチポジションを確保することと、この位置で負荷のかかる種目を絶対に選んでください。ここからはこのルールに基づいた実際の肩のトレーニング種目を紹介していきます。
最強種目
ここまでを踏まえて、科学的に最適化された肩トレ構成を紹介します。
まずは中部を鍛える種目から。ケーブルサイドレイズは中部を鍛えるのに理想的な種目です。ライイングサイドレイズは非常に難しいです。確かにストレッチポジションで負荷はありますが、そもそも物理的な負荷がかかる範囲が狭く、そして強度曲線もバラバラであるためこの種目を好まない人も少なくありません。
ケーブルは腕を下ろした時手が当たる位置が理想的です。低い位置から引っ張る人もいますが、これだと負荷が弱くなってしまいます。腕を下げたときに真横に負荷があればこの位置で一番欲しい刺激を筋肉に与えられます。
必ずヒジを伸ばしてケーブルを真横に引っ張りましょう。ヒジを曲げればウエイトが楽に持ち上げられたり、もっと高重量を扱うことができますが、これは筋肉の成長にとって何の意味もありません。そして個人的に非常におすすめなのがケーブルを肩の後ろに通すこと。
ケーブルを後ろに通すと肩が中立的な位置に固定されてずっと中部が横を向いている状態になります。これによってサイドレイズの負荷が中部に集中します。
次は後部を鍛えましょう。ストレッチポジションで腕が前にある状態では後部は十分伸びきっていません。リバースのケーブルフライはこの筋肉を鍛えるうえで理想的な種目です。ケーブルのヘッドをそのまま握って引っ張り、ストレッチポジションでは腕を交差させて三角形後部を伸ばします。

このリバースフライ運動は三角筋の後部だけではなく僧帽筋にとっても理想的であるため背中を鍛えたい人にとってもおすすめです。肩と高さが違うと不要な運動が入ってほかの筋肉に刺激が逃げてしまいます。肩の位置からまっすぐ横に引っ張るようにしましょう。
肩を最短で、効率よく鍛えたい人は前部をトレーニングする必要はありません。ここは大胸筋トレーニングに頼りましょう。そして肩のトレーニングの7~8割ほどをケーブルサイドレイズ、残りをリバースケーブルフライに充てましょう。
Q&A
それではここからよくある肩トレについての質問に回答していきます。
肩が成長しない、丸みが出ない原因は何ですか。これはひとことで言うならバランスです。肩のトレーニングの分配が間違っていて鍛えすぎている部位と足りていない部位が出ていることが原因です。
前部は鍛えなくていいですか。はい。大胸筋をトレーニングしている人にとって三角筋の前部は成長に十分です。中部と後部に集中しましょう。
前部を鍛えないとプレスが弱くなる可能性はありますか。確かにプレスで前部は働くのでここを鍛えないことでパフォーマンスが下がってしまう可能性はあるかもしれません。しかし前部は大胸筋トレーニングで鍛えられているのでそうなるリスクは非常に低いです。
大胸筋トレーニングをしていない場合はどうしたらいいですか。大胸筋を鍛えていない場合は肩のトレーニングをしないと前部は成長しません。この場合はバランスよく同じ配分で肩を鍛えた方がいいでしょう。
肩は小さい筋肉だから回復が早い。だから毎日鍛えてもいいというのは本当ですか。まずこれには2つの誤解があります。
まず最初にも紹介したように肩は上半身の中で最も巨大です。そしてすべての筋肉は毎日鍛えてもいいです。実際いくつかの研究では高頻度で毎日少しずつ鍛えたほうが肩の日を作って集中的に鍛えるよりも筋肉の損傷が小さく回復能力が高いことがわかっています。
肩のスーパーセットやジャイアントセットは効果的ですか。いいえ。肩を連続で鍛える方法はデメリットが大きいです。解剖学のチャプターで紹介したように中部は前部、そして後部のトレーニングでも働いています。こういった同じ筋肉を連続で鍛えるスーパーセットは筋肉を破壊し、VOL低下にもつながります。唯一効果的なのは前部と後部のスーパーセットです。
例えばパーカーフィットネスが応用するならチェストフライで大胸筋を鍛えてすぐにリバースフライをやります。
肩を鍛えるときは肩の日を作るべきですか。いいえ違います。最近公開した動画でも紹介しましたが、筋肉は高頻度で少しずつ鍛えたほうが効果は高いです。効率的に肩を成長させたいなら全身法を取り入れて毎日少しずつ鍛えましょう。
後部のトレーニングは背中トレーニングと考えていいですか。OKです。背中には厚みと広がりがありますが、リバースフライは厚みを構築する僧帽筋を鍛えるのに理想的な種目です。
まとめ
今日の記事をまとめると肩がデカくならない人は前部を鍛えすぎていて中部と後部を後回しにしている可能性が高いです。まずは外見的にも非常に重要な中部を優先しましょう。そして肩関節はケガしやすい部位なので安全に鍛えましょう。肩トレに10kg以上のウエイトは不要です。軽い重量で強い負荷を与えるためにも正しいフォームやチーティングを使わないことが重要です。
ストレッチポジション。そして狙った筋肉に負荷を集中させるのに最適な種目はケーブルを使ったサイドレイズとリバースフライです。この種目は科学的データを組み合わせた最強の種目です。
最新のメタ分析を基にすると時間効率を考えると11~18setがおすすめです。中部は15setを目標に、そして高頻度がおすすめです。例えば週5回3setずつ、週3回5setずつなどは理想的です。
ショルダープレスだけでは、肩は完成しない。“方向と順番と刺激”──この3つが、新時代の肩を作ります。パーカーフィットネスの動画では全身法のトレーニングメニューでの肩トレなども公開しています。チャンネル登録して是非チェックしてください。


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