人類はなぜ突然太り始めたのか?40年で肥満が急増した本当の理由

世界の成人肥満率は、1975年から2014年のわずか39年間で、男性は3.2%から10.8%、女性は6.4%から14.9%まで増加しました。これは186か国、1920万人以上のデータから確認されています。人類の長い歴史から見れば、ほとんど一瞬の出来事です。

では、なぜ人類は突然太り始めたのか。私たちの遺伝子が変わって太りやすい体になったのか。それとも、食事や運動など人間を取り巻く環境が変わったのか。今回は人類の歴史を遡りながら、肥満という現象がなぜここまで広がったのかを見ていきます。

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CH1:昔の人間は本当に痩せていたのか

まず知りたいのは、現代のような肥満社会が生まれる以前、人間はどんな体をしていたのかです。しかし当然、何万年前の人間を体重計に乗せることはできません。そこで手掛かりになるのが、現在でも狩猟採集など、工業化された社会とは大きく異なる生活を続けている人々です。彼らは古代人そのものではありませんが、スーパーや自動車、デスクワークに囲まれた現代社会から離れた人間の体を見る重要な手掛かりになります。

代表的なのが、タンザニアで狩猟採集生活を送るHadzaです。成人473人を調べた研究では、平均BMIは男性20.1、女性20.3。平均体脂肪率は男性10.6%、女性19.0%でした。さらに興味深いことに、BMIは年齢が上がってもほとんど増加しませんでした。現代では20代より40代、50代の方が体重が重いというパターンは珍しくありません。しかしHadzaでは、年齢とともにどんどん体脂肪を蓄えていく現象自体がほとんど見られなかったのです。

これはHadzaだけの特殊な現象でもありません。狩猟採集民や自給的な農耕民などの小規模社会をまとめたレビューでは、こうした集団の肥満率は概ね5%未満でした。平均体脂肪率も男性9〜18%、女性24〜28%程度です。もちろん昔にも太った人間は存在しました。問題は肥満が存在したかどうかではありません。人口の20%、30%、40%という規模で肥満になる社会が普通だったのかということです。答えは明らかに違います。

つまり、私たちの体型は大きく変わっています。これは反論の余地がない事実です。ここで考えたくなるのが進化です。人間は何十万年もの間、食料不足と戦ってきました。もしかするとその過程で、食べられるときにできるだけ脂肪を蓄える、つまり太りやすい体に進化したのでしょうか。

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CH2:人間は太るように進化したのか

この疑問に対する有名な説明が「倹約遺伝子仮説」です。昔の人類にとって食料は、現在のように冷蔵庫を開ければ必ず入っているものではありませんでした。豊作もあれば不作もあり、狩りに成功する日も失敗する日もある。そこで、食べ物があるときに効率よく脂肪を蓄えられる人間ほど、食料不足を生き延びやすかった。その結果、脂肪を蓄えやすい遺伝子が人類に広がり、飢餓がほとんどなくなった現代では、その能力が肥満を引き起こしている。これが倹約遺伝子仮説です。

これはかなり説得力があります。しかし、実際に遺伝子を調べると話はそれほど綺麗ではありません。2009年の研究では、2型糖尿病に関連する遺伝的な特徴について、過去に強い自然選択を受けた形跡があるか調べられました。

簡単に言うと昔、太りやすい人ほど飢餓を生き残って子孫を残していたなら、“太りやすい遺伝子”は人類の中でどんどん増えたはず。その痕跡がDNAに残っているか調べたということです。 しかし、倹約遺伝子仮説を支持する一貫した自然選択のパターンは確認されませんでした。

さらに2016年には、BMIと関連する115個の遺伝的変異について自然選択の痕跡が調べられました。もし「飢餓によって太る遺伝子が広がった」という説明が正しいのであれば、肥満を促す遺伝子には大量の選択の痕跡が残っているはずです。しかし選択の証拠が確認されたのは115個中9個だけ。しかもそのうち5個では、選択されていたのは肥満を促す側ではなく、むしろBMIを低くする方向の遺伝子でした。つまり、飢餓によって人類全体に太る遺伝子が広がったという説明は、現在の遺伝学では支持されません。

では、なぜ人間はこれほど大量の脂肪を蓄えられるのでしょうか。ここには別の仮説もあります。例えば「Drifty Gene Hypothesis」と呼ばれる説です。こちらは、太る能力が積極的に選ばれたのではなく、太り過ぎを防ぐ進化的な圧力が弱くなったのではないかと考えます。

提唱者のSpeakmanは、かつて極端に太ることは捕食者から逃げる上で不利だった一方、人類が火や武器、集団行動を獲得して捕食リスクが低下すると、体脂肪の上限を厳しく抑える自然選択も弱くなった可能性を提案しています。これは証明された結論ではありませんが、「人間は飢餓のために太るよう進化した」という有名な説明とは全く違う進化の見方です。

簡単に言うと、昔は太りすぎると動きが遅くなって捕食者に狙われやすかった。だから“太りすぎない体”が有利だった。でも人類が火や武器を使うようになって捕食者に襲われにくくなると、太りすぎを強く防ぐ必要がなくなった。その結果、体脂肪の上限が人によってバラつくようになったのではないか、という考え方です。

つまり、進化は現代人が脂肪を蓄えられる理由の背景にはなっているかもしれません。しかし、**ここ数十年で起きた肥満の爆発を「人間が太るように進化したから」で説明することはできません。**では遺伝子は肥満に関係ないのでしょうか。実は逆です。遺伝子はかなり重要です。ただし役割が違います。

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CH3:遺伝子は「誰が太りやすいか」を左右する

人類全体が突然太った理由を遺伝子だけで説明することはできません。しかし、同じ環境の中で誰が太りやすいかには、遺伝子がかなり強く関係しています。

14万人以上の双子を含む研究をまとめたシステマティックレビューでは、双生児研究におけるBMIの遺伝率は47〜90%、中央値は約75%でした。これは「あなたの体重の75%が遺伝子で決まる」という意味ではありません。同じ集団の中で見られるBMIの個人差のかなりの部分が、遺伝的な違いと関連しているという意味です。簡単に言えば、同じ社会で同じように生活していても、太りやすい人と太りにくい人がいる。その違いには遺伝子がかなり関係している、ということです。

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この違いを非常に分かりやすく示したのが、一卵性双生児を使った有名な過食実験です。12組24人の若い男性一卵性双生児に、普段の食事より1日1000kcal多く、週6日、合計84日間食べてもらいました。つまり全員が合計8万4000kcal、ほぼ同じ量の余分なエネルギーを摂取しました。ところが平均体重増加は8.1kgだったものの、個人で見ると4.3kgしか増えなかった人もいれば13.3kg増えた人もいました。同じ余剰カロリーでも、体重増加には3倍以上の差が出たのです。

さらに重要なのは、その太り方が一卵性双生児同士では似ていたことです。体重、体脂肪率、脂肪量などの変化は、異なる双子のペア同士より、同じ双子のペア内でよく似ていました。つまりこの研究が示しているのは、**「同じだけ食べれば、誰でも同じだけ太るわけではない」**ということです。食べ過ぎに対して体がどの程度体重を増やすのかには大きな個人差があり、その反応の違いにも遺伝的な要因が関係していたのです。

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そして、こうした「太りやすさ」に関係する具体的な遺伝的変異も見つかっています。代表的なのがFTOです。3万8759人を調べた研究では、FTOのリスク型を2コピー持つ成人は、リスク型を持たない人より平均約3kg重く、肥満になるオッズは1.67倍でした。つまり「太りやすい遺伝子」という表現は完全な比喩ではなく、実際に体重や肥満リスクに影響する遺伝的な違いは存在します。

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ただし、ここで1つ重要なことがあります。遺伝子を持っているだけで、必ずその影響が同じ強さで表れるわけではありません。周囲の環境によって、遺伝子の影響が表に出やすくなることがあります。

1900年から1958年生まれの8788人を調べた研究では、BMIを高くする遺伝的リスクと実際のBMIとの関係が、より後に生まれた世代ほど強くなっていました。例えば白人参加者では、遺伝リスクスコア1単位あたりのBMI差は1924年以前生まれでは0.17だったのに対し、1943年以降生まれでは1.37でした。簡単に言うと、昔の環境では太りやすい遺伝子を持っていても、その違いは体重にあまり表れなかった。しかし、食料が豊富になった現代では、同じ遺伝的な違いが大きな体重差として表れやすくなった可能性があるということです。

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ここまでで遺伝子の役割がかなり整理できます。遺伝子は、**「誰が太りやすいか」**を説明する上では非常に重要です。しかし、遺伝子だけでは、なぜ世界中の人間が数十年で一斉に太り始めたのかは説明できません。人類の遺伝子が1970年代以降に突然変わったわけではないからです。

つまり、次に見るべきなのは遺伝子そのものではありません。**同じような遺伝的背景を持つ人たちが、全く違う環境で暮らしたとき、体型がどう変わるのか。**ここを見ると、現代の肥満がなぜ増えたのかがかなり分かりやすくなります。

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CH4:環境が変わると人間は太る

このことを非常に分かりやすく示すのが、Pimaと呼ばれる人々の研究です。メキシコの山間部で伝統的な生活を送るPima35人と、年齢や性別などを合わせたアメリカ・アリゾナ州のPimaを比較したところ、メキシコ側の平均体重は64.2kg、BMI24.9。一方、アリゾナ側では平均体重90.2kg、BMI33.4でした。

非常に近い祖先的背景を持つ集団でも、異なる生活環境では平均体重に約26kgもの差が見られたのです。この研究の重要なポイントは、「Pimaだから太る」という遺伝だけの説明では不十分だったということです。同じような遺伝的背景を持っていても、どんな環境で暮らすかによって体型には大きな違いが生まれていました。

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さらに重要なのは、伝統的な生活をしていたメキシコのPima自身も、環境が変わると太り始めたことです。1995年から2010年の15年間、この地域では道路や電気、水道などの整備が進み、生活がより現代化しました。その間、Pima男性の肥満率は6.6%から15.7%、女性では18.9%から36.3%へ上昇しました。こちらは「違う場所に住む2集団を比較した」というだけではありません。同じ地域の人たち自身が、生活環境の変化とともに太っていったというデータです。人類の遺伝子が15年で大きく変わったわけではありません。それでも肥満率は大きく変わりました。

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そしてこれはPimaだけで起きている現象でもありません。サモア人2657人を調べた研究でも、より近代化した地域に住んでいる男性や、より現代的な職業に就いている人ほど肥満が多い傾向が確認されました。生活が現代化するほど、体型も変化していく同じパターンが見られます。

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さらにパプアニューギニアでは、同じ地域にルーツを持つ親族同士を比較した研究があります。伝統的な村で生活する123人と、都市Port Moresbyに5年以上暮らす98人を比較したところ、都市側では男性57%、女性67%が過体重または肥満でした。一方、農村側では約28%。都市側は体重、BMI、ウエストなども有意に高くなっていました。つまり、同じような祖先を持っていても、農村で暮らすか都市で暮らすかによって体型が大きく変わっていたのです。

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そして私たちは、この変化を現在進行形でも見ることができます。ボリビアのTsimaneという自給的な生活を送る集団を2002年から2010年まで追跡した研究では、女性の肥満率は2.4%から8.9%、男性は0.7%から2.2%へ上昇しました。市場から購入する食用油などの利用も増え、女性では油の使用量とBMIに正の関連が見られています。つまり、「伝統社会だから永遠に痩せたまま」なのではありません。市場食品や現代生活が入り始めると、その集団自身の体型も変わり始めます。

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ここまで4つの地域を見てきましたが、国も民族も全く違います。それでも起きていることはよく似ています。伝統的な生活では肥満が少ない。しかし都市化し、市場食品が入り、道路やインフラが整い、生活が便利になるにつれて、体重と肥満率が上がっていく。
つまり、遺伝子は太りやすさの個人差を作ります。しかし、**その太りやすさを実際の肥満として表面化させるのが環境です。**太りやすい遺伝子を持つ人間が突然増えたというより、もともと存在していた遺伝的な個人差が、肥満になりやすい環境の中で一気に表面化したと考える方が自然です。
では、その「肥満になりやすい環境」はいつ生まれたのでしょうか。

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CH5:肥満社会はいつ生まれたのか

人類は約1万年前に農耕を始め、狩猟採集だけに頼っていた時代より安定して食料を生産できるようになりました。しかし、農耕が始まった瞬間に現代のような肥満社会が生まれたわけではありません。農作業には大きな身体活動が必要で、収穫は季節や天候に左右され、食料不足や飢饉も繰り返されていました。

本格的に環境が変わっていくのは産業化以降です。食品を大量生産できるようになり、保存・輸送技術が発達し、同時に仕事や家事も機械化されていきました。そして20世紀になると、冷蔵庫、自動車、スーパーマーケット、外食産業などが広がります。

世界各地で起きた、伝統的な食事と高い身体活動から、高エネルギーな食事と座位中心の生活への移行は「Nutrition Transition」と呼ばれています。簡単に言えば、国が豊かになるにつれて、「食料を得るために体を動かす生活」から、「高カロリーな食べ物を簡単に手に入れ、あまり動かなくても暮らせる生活」へ変わっていくことです。

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ただし、ここで重要なのは、肥満率が農耕の開始や産業革命から一直線に上がり続けたわけではないことです。

アメリカを見ると非常に分かりやすく、20〜74歳の成人肥満率は1960〜62年で13.4%、1971〜74年で14.5%、1976〜80年でも15.0%でした。約20年間、ほとんど変わっていません。ところが1988〜94年には23.2%、1999〜2000年には30.9%まで上昇します。つまり、現在の肥満爆発が本格的に見えてくるのは、特に20世紀後半です。

Products – Health E Stats – Overweight Prevalence Among Adults 2005-2006 Prevalence of overweight, obesity and extreme obesity among www.cdc.gov

ここはかなり重要です。農耕はすでに何千年も前から存在していました。産業革命からも100年以上が経っています。人類の遺伝子も大きく変わっていません。それなのに、肥満率は20世紀後半になって突然大きく上昇しました。つまり、「農耕を始めたから太った」「産業革命が起きたから太った」という1つの出来事だけでは、現在の肥満爆発は説明できません。

20世紀後半には、食料供給がさらに増え、食品加工が進み、外食や間食が増え、自動車が普及し、仕事も座って行うものが増えていきました。1つの変化だけではなく、「食べるカロリーを増やしやすい変化」と「体を動かさなくても生活できる変化」が同じ時期に重なったことが重要です。

では具体的に、昔の人間と現代人では「食べ方」がどう変わったのでしょうか。次は、食事回数、間食、ポーション、飲み物など、人間が1日の中でカロリーを摂る方法そのものがどう変化したのかを見ていきます。

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CH6:昔と今で「食べ方」はどう変わったのか

まず、「昔の人間は1日1食だったのに、現代人は3食になった」という単純な話ではありません。食事回数は地域や文化によって大きく異なりますし、現在の狩猟採集民でも1日に複数回食べます。重要なのは決まった食事回数ではなく、現代では食べ物へのアクセスがほぼ途切れなくなったことです。

昔の人間は、お腹が空いたからといって必ずしもその瞬間に食べられたわけではありません。食料を採集する、狩る、育てる、調理するという過程が必要でした。現在は違います。コンビニに入れば数十秒で数百kcalを買えます。冷蔵庫には食べ物があり、飲食店もあり、宅配なら外に出る必要すらありません。人類は「食事の時間に食べる社会」から、「食べたいときにいつでも食べられる社会」に近づきました。

実際、アメリカの成人3万6846人を1977〜78年、1994〜98年、2003〜06年で比較した研究では、食事と間食を合わせた1日の摂食機会が増加していました。そして食べてから次に食べるまでの時間は約1時間短くなり、2003〜06年には平均約3時間になりました。現代人は、1回の食事だけではなく、1日の中でカロリーを口にする回数そのものを増やしていたのです。

特に増えたのが間食です。アメリカ成人4万4754人では、間食する人の割合が1977〜78年の71%から2003〜06年には97%まで増加しました。1日の間食回数も約1回増え、総摂取カロリーに占める間食の割合も18%から24%へ増えています。つまり朝・昼・夜だけではありません。その間にお菓子、飲料、軽食などが追加されるようになりました。

そして1回に出てくる量も大きくなっています。6万3380人を対象に1977〜1998年のポーションサイズを調べた研究では、多くの食品でサイズが増加していました。ソフトドリンクは約387mLから588mL、ハンバーガーは約162gから198g、フライドポテトは約88gから102gへ増加しました。それに伴って1回当たりのカロリーも、ソフトドリンクで+49kcal、ハンバーガーで+97kcal、フライドポテトで+68kcal増えています。

さらに現代では、食べ物だけではなく飲み物からも簡単にカロリーを摂取できます。7万3345人を含むアメリカのデータでは、1977年から2001年にかけて甘味飲料から摂取するエネルギーは135%増加しました。水分補給という、本来ならほぼカロリーを必要としない行為まで、エネルギー摂取の機会になったのです。

つまり、昔と現代では単に「食べている料理が違う」だけではありません。**食べ物が常に手に入り、食べる回数が増え、間食が増え、1回の量も大きくなり、飲み物からまでカロリーを摂れるようになった。**人間が食べ過ぎるための入口が、1日のあらゆる場所に増えました。
そして変わったのは、食べるタイミングや量だけではありません。食べ物そのものの性質も変わっています。

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CH7:現代の食べ物は何が違うのか

現代食品の大きな特徴の1つが、少ない量でも大量のカロリーを摂取できることです。これをエネルギー密度と呼びます。同じ300gを食べても、野菜や芋、果物を中心にした食事と、油や砂糖を多く含む食品ではカロリーは全く違います。

18人の女性に、エネルギー密度だけを変えた食事を自由に食べてもらった実験があります。食べた食品の重量はほぼ同じだったのに、低エネルギー密度の食事では1日1376kcal、高エネルギー密度の食事では1800kcalを摂取しました。約424kcalの差です。それでも空腹感や満腹感には大きな違いがありませんでした。つまり人間は、同じくらいの量を食べ、同じくらい満足していても、食品のカロリー密度が上がるだけで自然に摂取エネルギーを増やせます。

さらに現在では「超加工食品」が大量に存在します。この影響を非常に直接的に調べたのが2019年のNIHの実験です。20人の成人を研究施設内で生活させ、2週間は超加工食品中心、もう2週間は未加工食品中心の食事を自由に食べてもらいました。用意された食事は、提示されるカロリーや主要栄養素などができるだけ揃えられていました。

それでも超加工食品の期間では、参加者は1日平均約508kcal多く食べました。その結果、わずか2週間で平均0.9kg体重が増加。一方、未加工食品の期間では平均0.9kg減少しました。人間を変えなくても、目の前にある食べ物を変えるだけで1日500kcal以上摂取量が変わったのです。

なぜ現代食品ではこれほど食べる量が変わるのでしょうか。その手掛かりになる研究もあります。4つの食事実験から合計2733食を解析した2023年の研究では、食事のエネルギー密度が高いこと、食べる速度が速いこと、そして嗜好性の非常に高い食品であることが、それぞれ自由摂取時のカロリー増加と一貫して関連していました。

ここで「現代食品」の問題がさらに分かりやすくなります。昔と現代では、1回に食べる量だけではありません。**1g当たりのカロリーが増え、さらに1分当たりに摂取できるカロリーまで増えています。**柔らかく、口に入れやすく、短時間で食べられる食品なら、満腹感が追いつく前に大量のエネルギーを摂取することもできます。

そしてこの変化は、今まさに伝統社会にも入り始めています。Tsimaneでは2010年から2015年の約5年間で総エネルギーと炭水化物摂取量が増加し、精製砂糖は1人1日当たり15.8g、油は4.9mL増えました。特に市場に近い村ほど摂取量の増加が大きく、同時にBMIや体脂肪、過体重・肥満も増える方向にありました。

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CH8:人類は本当に食べる量が増えたのか

脂肪の増加や減少には摂取カロリーと消費カロリーが関係しています。まずは摂取カロリーから見てみましょう。
少なくとも、肥満が急増した時期のアメリカを見ると答えはかなり明確です。1971〜2000年のデータでは、成人男性の平均摂取カロリーは1日2450kcalから2618kcalへ、女性では1542kcalから1877kcalまで増加しました。同じ期間、成人肥満率は14.5%から30.9%へ、2倍以上に増加しています。

ただ、「カロリーが増えた時期と肥満が増えた時期が同じだった」というだけでは、単なる相関かもしれません。そこで2009年の研究では、1970年代から2000年代にかけて増えたアメリカの食品エネルギー供給量から、人間の体重がどれほど増えるはずかがモデルで計算されました。

その結果、成人で予測された体重増加は10.8kg。実際に観察された平均体重増加は8.6kgでした。子どもでは予測された増加も実際の増加も4kgでした。つまり、増加した食品エネルギー供給量だけでも、実際に起きた体重増加を説明できるほど大きかったということです。

そしてこれはアメリカだけでもありません。69か国を調べた研究では、56か国で食品エネルギー供給量の増加と平均体重の増加が同時に起きていました。さらに45か国では、増えた食品エネルギー供給量が、観察された体重増加を説明するために必要と推定された量を上回っていました。

ここまでを見ると、食事側の変化はかなり明確です。摂取カロリーは間違いなく上がっています。

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CH9:現代人は本当に消費カロリーが減ったのか

では、肥満が増えたのは現代人が動かなくなり、消費カロリーが大きく減ったからなのでしょうか。実際、仕事で使うエネルギーはかなり減っています。
アメリカでは1960年代初め、民間の仕事の約半分が中強度以上の身体活動を必要としていましたが、その割合は20%未満まで低下しました。仕事による1日の推定消費カロリーも、男性では1960年代から2000年代までに約142kcal減少しています。つまり、現代人の生活から身体活動が減ったこと自体は事実です。

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ところが、ここからが意外です。狩猟採集生活を送るハッザは、現代の欧米人より明らかに活動的です。しかし二重標識水法で1日の総消費カロリーを測定すると、体格を考慮した総エネルギー消費量は欧米人と大きく変わりませんでした。たくさん動いている人が、その分だけ1日の総消費カロリーも大幅に高いとは限らなかったのです。

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この現象をさらに調べた2016年の研究では、5つの集団から332人の成人を調べ、身体活動量と1日の総消費カロリーを比較しました。活動量が低い範囲では、よく動く人ほど総消費カロリーも増えていました。しかし活動量が高くなるにつれて、その増加は小さくなり、最終的には頭打ちに近づきました。研究者は、運動で使うエネルギーが増えると、体が他の生理機能に使うエネルギーを減らして一部を補償する可能性を示しています。

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簡単に言えば、運動で300kcal使ったからといって、1日の総消費カロリーがそのまま300kcal増えるとは限らないということです。人間の体は、活動量の増加に対してある程度適応します。

さらに2023年、アメリカとヨーロッパの成人4799人の二重標識水データを解析した研究では、1980年代後半以降、体格や年齢を調整した1日の総消費カロリーは低下していました。しかし、その原因は身体活動による消費の低下ではありませんでした。むしろ調整後の活動エネルギー消費は増えており、低下していたのは主に基礎的なエネルギー消費でした。つまり、「現代人が運動しなくなって消費カロリーが落ちたから肥満が増えた」という単純な説明は、現在のデータとは合いません。

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もちろん運動には多くの健康効果があり、消費カロリーも増やします。しかし人類の肥満増加を説明するとき、**「昔より動かなくなった=その分だけ総消費カロリーが激減した」**と考えるのは単純すぎます。人間の総消費カロリーは、活動量だけで直線的に決まっているわけではないのです。

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CH10:じゃあ、人間はなぜ太ったのか

ここまでの答えを一言でまとめると、人間が急に太りやすい生物になったのではなく、人間を取り巻く環境が急激に太りやすくなったからです。

遺伝の影響はかなり大きいです。同じ環境で生活していても、食欲が強い人、満腹になりやすい人、同じだけ食べても体重が増えやすい人がいます。つまり遺伝は、「誰が太りやすいか」を大きく左右します。しかし、なぜ世界中の人間が数十年という短期間で一斉に太り始めたのかは、遺伝子の変化では説明できません。そこでは環境の変化が主役です。

現代では、食べ物を探す必要も、狩る必要も、育てる必要もありません。コンビニに入れば数十秒で数百kcalを買え、冷蔵庫には食べ物があり、外食も宅配もあります。さらに、少ない量で大量のカロリーを摂れる食品、短時間で食べられる食品、間食したくなる食品が身の回りに溢れています。一方で、移動、仕事、家事など生活そのものに必要だった身体活動は減りました。太るための条件が、昔とは比べものにならないほど揃ったのです。

そして、実際に体脂肪が増える直接の条件はシンプルです。長期間にわたって、摂取カロリーが消費カロリーを上回ることです。 遺伝も、食品の種類も、食欲も、運動量も、生活環境も重要ですが、最終的にはそれらが「どれだけ食べて、どれだけ使うか」に影響して体重が変わります。

だから、もし痩せたいなら最優先で見るべきなのは摂取カロリーです。糖質か脂質か、何時に食べるか、何回食べるかを細かく考える前に、まず1日の摂取カロリーを消費カロリーより低くする。そのうえで、間食やカロリーのある飲み物を減らし、少量で高カロリーな食品を減らして、野菜、果物、芋、肉、魚など、比較的満腹になりやすい食品を増やす。意志の力で空腹に耐えるより、自然に食べ過ぎにくい環境を作る方が合理的です。

運動も重要です。消費カロリーを増やし、健康にも大きなメリットがあります。ただし、食べた分をすべて運動で帳消しにしようとするより、まず摂取側を整える方が体重管理では優先順位が高い。 そのうえで運動を組み合わせるのが現実的です。

つまり、遺伝は**「誰が太りやすいか」を決める。環境は「その太りやすさが実際に表面化するか」**を決める。そして体重を最終的に動かすのは、長期的なエネルギーバランスです。

人間が突然太りやすくなったのではありません。人間が太るための条件が、歴史上初めてこれほど揃ってしまったのです。肥満の歴史とは、人間の体が変わった歴史ではありません。人間の環境が、人間の体よりも速く変わってしまった歴史です。

Parker Fitness

今までの失敗,そして成功から科学的な文献を基にすると筋肉の付き方が全く違うことに気づきました。 それを皆さんにも経験してほしくYoutubeなどで科学的なアプローチで効果的な筋トレ法を紹介しています。