人間の体の中で最も目立つ筋肉のひとつでもある前腕は効率的に成長させるのが非常に難しい筋肉でもあります。なぜなら前腕には多くの筋肉がありますがそのうち8割ほどは非常に小さい筋肉で、たくさん鍛えても前腕の外見にはほとんど影響のない筋肉であり、加えて解剖学的には理にかなった鍛え方でも、実は科学的な裏付けがなく効率的ではない鍛え方も多くあります。
この記事では科学的なデータから最短で前腕をデカくするための鍛え方、おすすめの種目やトレーニングプログラムについて徹底解説します。
前腕の筋肉は大胸筋や上腕三頭筋などひとつの筋肉がまたがっているわけではありません。非常に多く、おおよそ20以上の筋肉が存在しており、紹介しきれないくらいの種類が存在しています。しかし、この20以上の筋肉が働く運動は2つから3つほどしかないため解剖学的な運動さえ理解していれば全ての筋肉を把握する必要はありません。
前腕の筋肉は肩にある三角筋のように前部と後部があり、前部は手のひらと同じ面に向いている部位です。バイセプスカールの時に正面を向いているのが前部だと思ってください。
後部は手の甲と同じ面にあります。バイセプスカールの時は鏡に映らない方向です。
前腕の筋肉のほとんどは指と手首の関節にまたがっているため、この関節を使った運動で主に使用されます。ただし、後部にある腕橈骨筋という前腕の中では非常に大きな筋肉のみ上腕二頭筋と同じ肘関節の屈曲に関係します。
前腕の前部は指と手を内側に閉じる屈曲。後部はその逆で指と手を外側に開く伸展に関係します。前腕の解剖学的なトピックとして知らなければならないのは、前部は指と手を閉じる運動。後部は逆に開く運動。この2つでほぼすべての前腕にある筋肉を鍛えることができますが後部にある腕橈骨筋のみ肘関節の屈曲で働くということです。
前腕の鍛え方の説明の前にそもそも前腕は鍛える必要があるのかについて解説します。前腕の筋肉は指を閉じる運動に関係しているため、握力に強い結びつきがあります。そのため、例えばダンベルやバーベルを握って引っ張るトレーニングでも筋肉が活動していることが考えられます。
2004年の研究によると高校野球選手を対象に12週間トレーニングを実行させました。ひとつのグループは被験者にはベンチプレス、スクワット、デッドリフトをはじめとした前腕を狙った種目がない一般的な全身トレーニングを週に3日実行させて、もう一つのグループはこの全身トレーニングメニューに加えて前腕のアイソレーショントレーニングを追加させます。
その結果、前腕のアイソレーショントレーニングがなかったグループでも前腕の筋力は成長しておりすべての測定値で増加が確認されました。筋肉量は測定されませんでしたが、筋力と筋肉量には強い関係性があるため、筋力の増加は筋肉が成長している可能性が非常に高いことを示します。
しかしながら、前腕のアイソレーショントレーニングを追加させたグループはより筋力が成長しており、前腕トレーニングなしのグループよりもすべての測定値で大幅な前腕の力の向上を示しています。
そのため、前腕の筋肉は直接的にトレーニングしなくても筋肉がある程度は構築できる可能性があります。とはいってもそれが最適ではなく、筋肉の成長は前腕を直接鍛えたほうが筋肉の成長率は大きく変わります。
前腕を最短で成長させるためには優先順位をつける必要があります。例えば肩にある筋肉でいうと代表的な三角筋以外にも棘下筋や小円筋、肩甲下筋などの筋肉も実は存在していますが、三角筋以外の筋肉は非常に小さく鍛えても外見にはほとんど影響が出ないためボディメイクのためには三角筋を集中的に鍛えるのが最も効率的です。
これと同じことが前腕にも当てはまります。2007年の研究では若くて健康的な被験者10人を磁気共鳴画像法を用いて上半身の筋肉サイズについて調べたところこのようなグラフが得られました。このデータを見ると右側の前腕の筋肉群のほとんどは上腕三頭筋などの巨大な筋肉と比べると数%程度の大きさしかないことがわかります。
そのため、前腕トレーニングは大きな筋肉を狙ったトレーニングか。小さい筋肉を狙ったトレーニングかで前腕の成長効果が全く違います。もし、前腕を鍛えているのに変わらないと悩んでいるなら、もしかするとそれは小さい筋肉を狙っているからかもしれません。
前腕の筋肉の中で優先させるべき筋肉は外見的に重要であり、なおかつ巨大で成長しにくい筋肉です。
最もおすすめの筋肉は前腕の後部の筋肉群と腕橈骨筋です。この筋肉は前腕の後部にある筋肉の中でもかなり巨大です。前腕の前部と後部では後部を成長させたほうが外見が大きく変わります。これはほとんどの場合人の目に触れる筋肉は後部であるからです。
そのため、前腕を太くしたい人や外見を変えたい人は後部にある筋肉を優先して鍛えるのがベストです。
前腕を成長させたい人、鍛える場合まず意識してほしいことはどれくらい前腕を優先させるかです。
例えばトレーニーの中には前腕にこだわりたいからここを集中的に鍛えたいという人もいれば、前腕は成長させたいけどまずは大胸筋とか背中、肩の筋肉を優先して鍛えたいという人もいます。
この動画では前腕を鍛える人を3つのレベルに分けます。
レベル1は前腕は成長させたいけど優先度は低い。出来るだけこの部位のトレーニングに時間をかけたくない人。
レベル2はおそらく割合としては一番多いと思います。前腕の中で重要な筋肉を最短でデカくさせたい人。毎日のトレーニングルーティンに1種目程度追加する分には問題ない人。
レベル3は前腕を最短でデカくしたい人。この筋肉を集中的に鍛えて全体的に成長させたい人。
まずはレベル1から解説します。
前腕を成長させたいけどそこまで重要視していない人は、上腕二頭筋トレーニングを行えば十分です。
前腕のサイズや外見で最も重要なのは腕橈骨筋ですが、この部位の成長のためには適切な上腕二頭筋種目を行っていれば十分であることを示すいくつかのデータがあります。
例えば2018年の研究ではストレートバーベルカールでの回外グリップとEZバーカールでの半回外グリップでは腕橈骨筋の活動にはほとんど差がなかったことを示しており、2023年の新しい研究でも回外グリップ、回内グリップ、ロープを使用したニュートラルグリップで比較を行ったところ、上腕二頭筋はじめ、腕橈骨筋の活動も大きな差がなかったことを示しています。
今までの常識としては手のひらが上に向く回外グリップでは上腕二頭筋、下に向く回内グリップでは前腕や上腕筋と考えられてきました。確かにこれは理にかなっています。しかし、実際科学的データではそのカールグリップの理論は裏付けられていません。
研究者のmenno henselmans博士はこの理論は生体力学的に意味をもたらさないと答えています。
手のひらを上にして前腕を回外すると上腕二頭筋に効いている感覚がしたり、目立って見えることがあります。これは上腕二頭筋が収縮するためです。しかし、近年の多くの研究で示されているように収縮というものは筋肉の成長に役に立ちません。
簡単に言うと前腕を回外させることはプリチャーカールでヒジを伸ばし切らないことと同じで収縮感を強めます。これは、パンプや効いてる感があっても筋肉の成長を増やすわけではありません。
つまり、今までの常識である、手のひらが上に向く回外グリップでは上腕二頭筋、下に向く回内グリップでは前腕や上腕筋というのは正しくなく、一般的な上腕二頭筋カールとリバースグリップのバイセプスカールでは上腕二頭筋、前腕にある腕橈骨筋、上腕筋すべての屈曲筋に同じだけの負荷がかかります。
前腕を狙わずとも上腕二頭筋トレーニングで腕橈骨筋は成長するため、”前腕は成長させたいけど優先度は低い。出来るだけこの部位のトレーニングに時間をかけたくない人”はバイセプスカールで十分です。
おすすめの種目はプリチャーカールです。
一般的な直立した状態のフリーウエイトカールでは上腕二頭筋が伸びてもその位置で負荷がないため筋肉の成長効果が非常に低いことがいくつかのデータによってわかっています。プリチャーカールでは座席の位置を変えるなど肩の位置を低くすることでストレッチポジションで強い負荷がかかるため筋肉の成長が。
必ずヒジを伸ばし切ってから持ち上げるようにしましょう。
前腕の中で重要な筋肉を最短でデカくさせたい人はリバースグリップのプリチャーカールがベストです。
あれ、さっきカール中のウエイトの持ち方は筋肉の活動に差はなかったんじゃなかったっけと気づく人もいると思います。しかし、リバースグリップにすることでいくつかのメリットがあります。
まずヒジの屈曲筋をより強く活性化できる可能性があります。現在のトレーニング理論としては筋肉を出来る限り伸ばした状態で物理的な負荷をかけることが重要というのが明確になっています。
上腕二頭筋や腕橈骨筋などの筋肉は手首を回外させると収縮するため、逆に考えると手首を回内させたほうが筋肉は伸びるため、最大限筋肉を伸ばすためにはリバースグリップにしたほうが筋肉の成長を促進させます。
先程のグリップによって筋活動に差はないと示した研究では直立したカールで比較をしたため、ストレッチがそもそもかかりません。プリチャーカールのようにストレッチポジションで負荷のかかる種目では筋肉の成長に違いが出る可能性があります。
そして、リバースグリップにすることで手首を真っすぐにするために伸展運動に負荷がかかることによって後部の筋肉が活動します。
そのため、前腕の後部や腕橈骨筋などのヒジの屈曲筋を鍛えるときはリバースグリップにするのが最も効果的です。これに加えて手首の進展を加えるとより後部がストレッチし成長します。
注意点としてこれはバーベルベンチプレスで考えるとわかりやすいですが、バーベルベンチプレスは基本的には手のひらが下を向いた回内グリップで行いますが、この場合ヒジ関節が内側に向いています。
効率的に鍛えるためにはヒジ関節の屈曲に理想的な負荷をかける必要があるためヒジ関節が真上を向く必要がありますが、リバースグリップのように腕を内側に回転させるとヒジが横を向いてヒジ関節の屈曲に負荷がかからなくなることに注意してください。
おすすめなのはニュートラルグリップのように完全に手のひらを下に向けるのではなくヒジが横に出ない範囲で手首を回内させるのがいいでしょう。これをすれば回内に加えてヒジが上を向くため最大ストレッチを入れつつ理想的な負荷をかけることができます。
優先度レベル1の人も上腕二頭筋トレーニングではリバースグリップにするのも効果的です。
前腕を最優先で鍛えたい人は、前部と後部をそれぞれ鍛える必要があります。後部は先ほど紹介したリバースグリップのプリチャーカールがベストですが、前部を鍛えたほうが全体的に前腕が成長します。
前部を鍛えるときに注意しなければならないポイントは握力トレーニングを過大評価することです。2023年の1月に公開された比較的新しいレビュー研究では20件の研究を分析したところ一般的なウエイトトレーニングは握力を向上させないことを示しています。
これは筋トレ上級者ほど顕著であり、高校野球選手を対象にした研究では握力の向上が確認されましたが、原因は被験者の筋トレ経験が非常に少なかった可能性があります。そのため、一般的なウエイトトレーニング、そしてファットグリップなど少し手を加えたトレーニングで前腕が成長する可能性は高くありません。
そして、握力トレーニングにはストレッチポジションがないため筋肉の成長効果も高くありません。menno henselmans博士は握力トレーニングは高い努力にもかかわらず報酬の低いトレーニングであり、ほとんどのトレーニーがそれをスキップするのは妥当であると答えているように握力にフォーカスしたトレーニングでも前腕が効率的に成長するとは考えにくいでしょう。
おすすめはリストカールです。ベンチ台に前腕を置いて手首だけ外に出します。一般的なリストカールはダンベルを握って手首だけを屈曲させますがそれでは前部の筋肉を最大限使えないため指の関節を使うためにもダンベルを指先に向かって転がします。スタートでは出来るだけ指先にダンベルを転がして落ちる寸前で手首を屈曲させるのと同時に握りこみます。
このトレーニングは二関節でストレッチをかけられるため握力トレーニングよりもはるかに筋肥大する可能性が高いです。
このリストカールは角度をつけて肘が下がるようにするとストレッチポジションで強い負荷がかかるようになります。ベンチ角度をつけたりプリチャーカールで試してみてください。
前腕を鍛える時は全身トレーニングの最後にやりましょう。先程のレビューに示されているように握力はそこまで使われないため前腕を鍛えてもそこまで大きな問題はないと思いますが、最初に前腕を鍛えるメリットもないため基本的には最後に鍛えるのが効率的です。
前腕トレーニングは疲労が非常に小さいため、かなり限界に近いレベルまで追い込んでも問題のない可能性が高いです。ダンベルが持ち上がらなくなるまで行うと筋肉の成長が最大化される可能性があります。
ただし、ストレッチポジションで筋肉が十分伸びているか確認するのは非常に重要です。正しく丁寧にを忘れずトレーニングしてください。重量はそこまで重要ではありません。成長しやすい大きな筋肉を効果的な方法で鍛えると短期間で前腕を成長させることができます。
最後にこの動画がいいと思っていただけたら是非高評価をお願いします。