大胸筋下部というのはいくつかの研究データでフラットベンチのバーベルプレスやダンベルプレスなどで十分成長する可能性があるコトが示されていますが、それだけではこの部位が成長せず大胸筋のラインができないという人も多くいます。
実は科学的データには致命的な欠点があり、ベンチプレスでは大胸筋下部のラインは作れない可能性が高いです。
この筋肉は上部などと比べるとかなり過小評価されがちな部位でもありますが、この大胸筋下部は大胸筋の中でも最も外見的に重要な部位といってもいいです。この下部を鍛えることによって出来る大胸筋のラインは胸をより立体的に見せ、この筋肉を強調します。
逆に上部や中部がどれだけデカくてもこの下部のラインがないと大胸筋はほとんど目立ちません。
この動画では科学的な根拠を基に大胸筋下部を成長させるためのルーティン、5つの超重要なポイントについて紹介します。
胸にある筋肉イコール大胸筋とイメージする人も多いと思いますが、胸部にある筋肉は大胸筋をはじめとした4つの筋肉、小胸筋、鎖骨下筋、前鋸筋で構成されています。ただし、胸のほとんどの範囲を大胸筋がカバーするため胸の筋肉イコール大胸筋と考えることがほとんどです。特に胸のラインを作る部分については大胸筋のみと考えてもいいでしょう。
大胸筋は肩関節から胸骨などに向かって伸びている筋繊維であるため、肩を中心に腕を動かす運動に関わります。大胸筋の横向きの成分は肩関節の水平内転という腕を閉じる運動のことを指し、メタ分析によるとこの運動が大胸筋を最も活性化させるものであることがわかっています。
この筋肉は広い範囲をカバーするが故に筋繊維が複数の方向に向かっており、鎖骨に向かっているものを上部、横に近いものを中部、肋骨に向かっているものを下部といいます。
上部は肩からスタートして上方向に伸びていることから腕を上に上げる運動、下部は下に伸びていることから腕を下に下げる運動によっても活動します。下部は腕を下に下げる運動に関わりますが、これは広背筋の運動と非常に似ているため、広背筋トレーニングでも下部が鍛えられている可能性があります。
実際、2011年の研究ではダンベルプルオーバーについての筋活動を調査したところ、広背筋よりも大胸筋の活動が高く、中部と下部については広背筋の2倍近い値であることがわかっています。
しかし、この3つの分け方を一部の人はBro-Scienceだといいます。
2009年の科学的分析では大胸筋という筋肉について詳しく調査をしたところ、鎖骨に向かうクラビキュアーと胸骨や肋骨に向かうスターナルにはそれぞれ独自の神経支配があることがわかっているため上部、そして中部下部を合わせた2つに分割することが最も自然であることを示しています。
実際、2013年の研究ではトレーニング経験のない男性にフラットバーベルベンチプレスを肩幅の2倍の広さで実行させたところ、上部は+36.3%,中部は+37.3%,下部は+40%の筋肥大効果が確認されたように一般的に言われる中部トレーニングは大胸筋の下部にも非常に効果的であると示すデータも少なくありません。
そのため、大胸筋下部のトレーニングガイドとして一般的なのがフラットなプレス運動で十分成長するため、下部を狙ったトレーニングをあえてする必要はないというものです。
実際、そうでしょうか。パーカーフィットネスはこれに同意しません。この科学的データを鵜呑みにするのはあまり良い考え方とは思えません。
ここからは大胸筋のラインをつけたい人が今すぐやるべき5つのステップについて紹介します。
解剖学的には大胸筋は神経支配を考えると上部を指すクラビキュアーヘッドと下部と中部を合わせた範囲を指すスターナルヘッドに分割することができます。逆に言うと下部と中部はそこまで明確な分離はないため、下部をあえて狙わなくても成長し、実際複数の研究でフラットベンチのバーベルプレスで十分下部が成長する可能性があることを示しています。
それでは大胸筋を分けるときは2つに分割して下部は無視するのが正解なのか。おそらくそれは正しくありません。実際、バーベルベンチプレスが100kg扱えても大胸筋のラインがつかない人も少なくないため、現実的な問題を考えると大胸筋には下部が存在しない。ここを鍛えるのは時間の無駄というのは明らかに不自然です。
加えて科学的データには多くの欠点があります。例えばバーベルベンチプレスについての研究ではこのエクササイズによって大胸筋の全体が大幅に成長しており、特に下部は上部や中部よりも高い筋肥大効果があることがわかっています。
ただし問題なのはその測定法です。
この研究では肋骨の空間によって大胸筋を3つに分離しました。下部は肋骨の4番目と5番目の間ですが、実際この筋繊維を下部と考える人はあまり多くないと思います。おそらく中部の下の方と感じる人が大半でしょう。
このように大胸筋下部はフラットのベンチプレスで成長するといっても実際多くの人がイメージするラインを作る部位ではないことがわかります。特に下部はこの傾向が強く、大胸筋の一番下の筋繊維は計測されていないことがほとんどであるため、科学的なデータの大胸筋下部という分類は現実的な下部というわけではないことに注意する必要があります。
筋繊維の向きを考えると下部は中部や上部よりもかなり縦向きに近いため、ラインを作ろうとするなら下部狙いを作ることがベストでしょう。実際に腕を真横に閉じて大胸筋を触ってみると上部や中部は収縮していることがわかりますが下部はほとんど収縮していないことがわかります。
これは下部は横よりも縦向きに近く、横方向の水平内転ではあまり活動しないことを意味するため、ラインを構築するためには下部を狙った種目を取り入れることが最善であることが考えられます。
そのため、そのうち下部が成長するだろうということで下部を鍛えずフラットなベンチやフライをやり続けると大胸筋のギャップがどんどん大きくなっていきバランスが悪くなっていきます。
胸のラインをつけるためには強い内転運動が必要です。大胸筋下部の筋繊維は斜め下に向かって伸びている筋繊維です。横の成分は肩関節の水平内転のように腕を真横に閉じる運動。下の成分は腕を下す伸展や内転を指すため、下部を狙うときは腕を閉じながらウエイトを下に引っ張る運動が最適であることが予想できます。
そのため、多くのトレーナーはデクラインのプレスやフライを推奨します。これはインクラインベンチプレスと逆に角度をつけることによって下部を狙う方法です。確かに脚を上げたり背中を下げることによって真横に行っていた運動に下方向の運動が追加されるため、下部がより活性化されるというのは理にかなっています。
しかし、実際デクラインのプレスでは下部の成長にとって不十分です。
2016年に行われた先ほどと似たEMG研究ではベンチ角度-15度のデクラインベンチプレスと0度のフラットベンチプレスでは大胸筋下部の筋活動は変わらなかったことを示しています。
デクラインプレスは確かに下部にとって理にかなった運動ですが先ほど挙げた研究を見るとデクラインプレスはフラットベンチプレスよりも大幅に大胸筋下部を刺激できるかといわれると微妙なところがあります。
特にフラットベンチプレスでも大胸筋下部がしっかり発達する人は別ですがフラットベンチプレスでは足りない、成長しないという人にはデクラインベンチプレスでは刺激が足りない可能性が非常に高いです。注意してほしいのはこういった研究データでも大胸筋の下部はかなり中部寄りに測定されているため、ラインを作る筋繊維ではほとんど変わっていない可能性がかなり強いです。
これは筋繊維の向きを考えると非常に理にかなっています。上部の筋繊維は15~30度程度、少し上向きですが大胸筋下部は肩から肋骨に向かって伸びており大胸筋のラインを作るかなり下の方の筋繊維はかなり直角に筋繊維が伸びています。
上部や緩やかなインクラインプレス、少しの屈曲で十分上部狙いといえるだけの刺激が入りますが、下部は少しの内転では不十分です。強めの内転または伸展運動が必要です。
大胸筋下部を成長させるうえで最も重要なのが、下部が伸びているときに負荷をかけることです。近年の筋トレの科学的データはストレッチポジションの時代といってもいいほど大量のデータが公開されています。
筋繊維は伸びている位置で負荷をかけると大幅に成長します。例えばインクラインカールをプリチャーカールに変えれば上腕二頭筋の成長が何倍にもなったり、上腕三頭筋トレーニングをオーバーヘッドでやるだけで筋肉の成長効果が大幅に増えます。
大胸筋トレーニングでもダンベルを十分下まで下げたり、腕立て伏せで自分の胸が床に触れるくらいまで下げることは必要不可欠ですが、大胸筋下部のトレーニングでも同じです。大胸筋下部のストレッチポジションで負荷のかかる最もおすすめの種目はHigh to Lowの高い位置から引っ張るケーブルクロスオーバーです。
高い位置から引っ張ることで大胸筋下部の筋繊維に沿った上から下に引っ張る運動になるためこの筋肉を強く働かせることができます。
先程解説した通り、大胸筋下部を強く働かせるためにはデクラインプレス等の少しの内転では不十分であるため、強い内転を入れるためにも下部を狙うケーブルクロスオーバーはケーブルの高さは一番上に設定しましょう。高さが足りない人は正座した状態で行うのも非常におすすめです。
そして意外と見落としやすいのが体の角度、一番上から下に引っ張れば確かに大胸筋下部は活性化される可能性が高いですがかなり多いミスが体を前傾させていること。体を前に倒しながらフライをすれば内転運動が弱くなるため、下部があまり活性化できなくなる可能性が高いです。
そのためにも、前傾は出来るだけ少しにして直立に近い向きにするようにしましょう。
そしてケーブルマシンの選び方にもかなり重要なポイントがあります。間違ったほうのマシンを選ぶと大胸筋のストレッチポジションで負荷がほとんどかからなくなります。
ケーブルマシンには一般的には狭いものと広いものがあります。狭いものは幅はおおよそ1m程度で、広いものは2mほどあります。下部に限らず大胸筋を成長させるためには幅の狭いものを選ぶ方が効果的です。
理由は水平内転のストレッチポジションです。肩関節の水平内転は肩を中心にした円運動です。そのため、収縮ポジション、腕が前にあるときは横向きの力が必要ですが、ストレッチポジション、腕が横に開いているときは前から後ろ、腕に対して90度後ろ向きへの負荷が必要です。
つまり、間隔の広いマシンでフライをすると横向きに近い運動になることから収縮ポジションでは強い負荷がかかりますがストレッチポジションでは前から後ろの大胸筋を引っ張る力が弱くなるため、大胸筋の成長にとってはベストではないでしょう。逆に狭い幅のものにするとストレッチポジションでかなり強い負荷がかかるため、大胸筋の成長を大幅に増加させる可能性があります。
収縮ポジションでの負荷はほとんどなくなりますが、筋肉の成長にとって重要なのは圧倒的にストレッチポジションであるため、収縮ポジションで負荷がかからないことは大きな問題ではありません。
このフライは前から後ろへの負荷がメインになるため腕が肩幅の広さになる程度まで閉じれば十分で、腕をクロスさせたりくっつける必要はありません。
そして、筋肉をより強く伸ばすことができればより筋肉が成長する可能性が高くなります。この種目ではストレッチポジションで手のひらを下に向けるよりも前に向けたほうが下部がより成長する可能性があります。
これは手のひらを下にすると肩関節の内旋が使用され、いくらか大胸筋が収縮した状態になるためです。代わりに手のひらを前に向けると肩関節が外転して大胸筋が伸ばされるのと同時に腕がより高い位置に外転できるため下部がかなり強く伸ばされます。
みなさんの胸トレでの大胸筋下部の成長率を増やす最も簡単な方法があります。それは上部を鍛えないことです。下部と上部は正反対の筋繊維です。上部は肩から鎖骨に向かって上方向に伸びる筋繊維ですが下部は肋骨に向かって下方向に伸びる筋繊維であるためお互いの向きはかなり反対に近いです。
そのため、下部にとって最も効果が低いトレーニングは間違いなく上部を鍛えるインクラインのプレスやフライです。科学的なデータでもベンチ角度が30度になると下部の筋活動が半減することがわかっているため上部のトレーニングでは下部はほとんど活動していないといってもいいでしょう。
つまり大胸筋の下部を最短で成長させたい人は胸トレで上部の種目はやらないようにすることが一番の近道です。これをするだけで全てのトレーニングで下部が刺激されるため効率的に筋肉を成長させることができます。
筋肉の成長にとっては自分の力を伸ばしていくことが非常に重要です。ある研究では上腕二頭筋のバイセプスカールを出来るだけ重い負荷に挑戦するようにしていった被験者はそうでなかった被験者よりも筋肉を成長させられたことを示しています。
ベンチプレスが100kg上げられたら105kgに挑戦したりと自分の扱える重量や回数の限界に挑戦していくと筋力と筋肉の成長が伸びやすくなる傾向にあり、これをプログレッシブオーバーロードといいます。
大胸筋下部を最短で成長させたい人は、下部を鍛える種目でどんどん重量を追加していくのがいいでしょう。ただし、ケーブルフライで自分の力に挑戦してくのはおすすめしません。アイソレーション種目やマシントレーニングで重量に挑戦すると筋肉にかかる負荷を軽減させたりとかなりミスが起きやすくなります。
例えばいつもやってるフライの重量をヒジを曲げてやればサイドレイズでヒジを曲げるように肩とケーブルの距離が近くなるため、大胸筋にかかる負荷が半減し、大胸筋のストレッチを減らせば筋肉にかかる負荷が小さくなるため簡単に重いウエイトが扱えます。
そのため、重量にどんどん挑戦していく種目にも注意が必要です。間違った種目を選ぶとフォームが崩壊して逆効果になっていきます。
重量をどんどん伸ばしていく種目、おすすめなのはディップスです。ブレットコントレラス博士が行った大胸筋種目の筋電図分析ではこのディップスが最も大胸筋下部を活性化することを示しています。ディップスにはベンチを使ったものもありますが、これは上腕三頭筋を特に強く活性化させます。大胸筋を狙うためにはバーを使ったディップスがおすすめです。これはほぼ真下にプレスを行うため非常に強い内転運動が入るので大胸筋下部がなかなか成長しないという人にはぴったりの種目です。
バーは広げるとヒジがバーの内側に配置されるため外に開くような力のかけ方になります。これは大胸筋が最も働く水平内転とは真逆の運動になるため、大胸筋があまり活動しない可能性があります。逆に狭くすればヒジが外側になるため、大胸筋にとって理想的な向きになります。
最初はアシストマシンを使いながら行って自重ができるようになったら加重ベルトをしてトレーニングしていきましょう。加重はダンベルからウエイトプレートまでかなり細かく広い範囲で出来るので非常におすすめです。
ディップスで重要なのはふたつです。まずは体を少し前傾させること。完全に体に対して真下のプッシュでは大胸筋はほとんど働かないため、体を少し前傾させることで後ろから前にプッシュする運動を追加する必要があります。
そして肩の安全のために体を沈めたときに肩と手が離れすぎないようにしましょう。これが遠いと超高重量でフロントレイズをしてるのと同じ運動になるため肩に非常に強いストレスがかかります。
安全にディップスの重量を増やすと科学的データに示されているようにどんどん大胸筋のラインがついていきます。
大胸筋下部は科学的なデータに基づくとフラットなプレスやフライで十分成長することを示していますが、かなり多くの研究は大胸筋のライン、影を作る部分は測定していないため、このラインを最短で作りたい人は下部用の種目を取り入れる必要があります。
そのためにはまずは上部を鍛えるインクラインベンチプレスなどの種目をなくして高い位置から引っ張るケーブルクロスオーバーやディップスで大胸筋を鍛えるのが効果的です。この2つの種目は大胸筋のラインを作る下部の筋繊維が強い内転がないと強く働かないということを考えると非常に理想的な種目です。
最短でラインを作りたい人はケーブルクロスオーバーとディップスが効果的ですが、下部を狙いつつ全体を成長させたい人はいつものトレーニングメニューにケーブルクロスオーバーのみ追加するのがいいでしょう。
ケーブルクロスオーバーは間隔が1m程度のフライマシンをヒザ立ちで体を直立させて引っ張るのがおすすめです。前傾させたりマシンから離れすぎないようにしましょう。
必ず下部を最大まで伸ばしましょう。最大まで腕を上げることはもちろんですが、手のひらを前に向けると肩関節が外旋するためより大胸筋が強く伸ばされます。
ここから手のひらを下に向けて内旋させましょう
上から下に引っ張るときは単純に腕を下げるだけではなく肩も同時に下に下げる必要があります。かなり多いミスはきつくなって肩がすくんでしまうと下部が全く働かなくなるといってもいいです。必ず引っ張るのと同時に肩甲骨を下げるようにしてください。
おすすめの大胸筋メニューとしては、下部の種目だけというのは大胸筋のバランスのためにもおすすめしません。最低でもフラットなベンチプレスを1種目は作って3種目で大胸筋を鍛えるのがいいでしょう。
週6回トレーニングする人はこの種目と今日紹介した2種目を交互に行って2サイクル作るのが最適です。下部を最短で成長させたい人は最低でも半分以上下部狙いは組み込むのがおすすめです。
筋肉の成長には経験者であれば2か月はかかるため、2か月後このトレーニングメニューで大胸筋のラインをつけることを目標にしてください。