逆三角形の体を作るためにはただ、背中の広がりを作るだけでは不十分です。広背筋下部を成長させないといけません。この筋肉を成長させることによって体と広背筋に段差ができるため、大胸筋下部のラインのように背中にもラインができ、圧倒的にこの筋肉を目立たせることができます。
しかし、一生懸命トレーニングしてもこの筋肉が成長しない人もいれば、数か月で広背筋の下部を成長させ、広背筋の外見を劇的に変えることができる人もいます。
この差は鍛え方の差です。実は科学的なデータによると常識だった鍛え方は広背筋下部を成長させず、効率が悪く、今すぐやめるべきであることがわかっています。この動画では広背筋下部を成長させるおすすめの鍛え方と最強種目について紹介します。
脇の下にある広背筋は肩から背中に向かって伸びる筋繊維です。この筋肉は肩関節にまたがっているため、肩を軸にした腕を動かす運動に関わります。特に広背筋は上から下に向かって流れている筋肉であるため、収縮させるためには腕を高い位置から下に引っ張る運動によって強く収縮します。
筋肉のサイズとしては上腕三頭筋、三角筋よりは小さく、おおよそ大胸筋と同じくらいですが、広背筋は非常に広い範囲をカバーする筋肉です。
解剖学的には広背筋の上の筋繊維は肩から背中の上部に向かって伸びているためかなり横向きに近く、下の方の筋繊維はほとんど股関節に向かって伸びているため、上部よりもかなり下向きといってもいいです。
実際、広背筋下部という筋繊維は存在するのか。大胸筋の内側と外側に分割するように横向きに伸びている筋繊維を縦向きに分割するというのは解剖学的にもやや不自然であり、科学的な根拠はまだ多くありませんが、横向きの筋繊維を横向きに分割するというのは、大胸筋をはじめ多くの筋繊維で実現されており、解剖学的に広背筋の下部が存在するというのは全く不思議ではありません。
2007年の研究では広背筋についての分析を行った結果、広背筋は最も上部に位置するL1から最も下部に位置するL6の6つのセグメントに分割出来ることを示しています。
注意点として広背筋の下部というはL5、L6と考えてもらってOKですが、この2つの筋繊維は下部だけを成長させるわけではありません。この筋肉は肩関節に収束していることからこの筋肉は下部だけではなく上部の外側も構築させるため、広背筋の下部だけを構築する筋繊維はなく下部を作る場合は広背筋の外側を走っている筋肉を鍛える必要があります。
ただし、L5とL6を集中的に狙うことは可能です。この筋繊維は大胸筋下部のような広背筋のラインを構築するため、この筋肉をより立体的に見せます。
それでは広背筋下部、L5やL6筋繊維を狙う方法はあるのか。あります。ここからは科学的なデータを基に広背筋下部を狙う方法について解説していきます。
広背筋下部を構築して背中の外見を爆発的に成長させるトレーニングルーティンには重要なポイントが3つあります。この3つのうちひとつでもクリアできていなければトレーニングの効果は正しいものと比べても良くて半分以下、悪いとほとんど意味のないものになります。
広背筋下部で最も注意しなければならないのはBro Scienceに基づいた筋トレ法です。広背筋下部の科学的データは非常に少ないため、インターネット上で間違った鍛え方がかなりの数あります。
Bro Scienceというのはフィットネス先進国アメリカで非常に多く使われる言葉で、ハッキリ言って悪い意味でつかわれます。Bro というのはバカにした表現のことで簡単に言うと馬鹿げたサイエンス。例えばボディビルダーがする「俺の体はデカいからこの鍛え方は正解」というサイエンスでクライアントや視聴者にする科学的な根拠のないアドバイスのことを指します。
体がデカいから何でも正解というのもBro Scienceですが、もうひとつのBro Scienceはこっちのほうが効くから効果的など自分の感覚を過大評価したアドバイスもBro Scienceです。
広背筋下部を鍛えるときのBro Science、絶対にやってはいけない鍛え方は広背筋の収縮感を重視した鍛え方です。
非常に多いアドバイスですが、広背筋下部を鍛えるときにニュートラルグリップや逆手でのロウをしたり、リバースグリップでのラットプルダウン、シングルアームのプルが効果的といわれますが、実際それを裏付けるデータはありません。
なぜこういったアドバイスが多いのか。それは筋肉の収縮感や効いてる感です。基本的には広背筋は上から下にウエイトを引っ張ることによって収縮します。つまり下向きに引っ張れば収縮するとき必ず広背筋の筋繊維は下部に集まります。
シングルアームのラットプルダウンや逆手でのプル、ロウをすると広背筋はより強く収縮するため広背筋下部に効いてる感があります。しかし、収縮ポジションは効いてる感はあっても筋肉の成長効果は高くなく、ストレッチポジションと比較すると筋肉の成長効果が半分以下であることがわかっているため、効くからという理由で収縮ポジションを集中的にやると気分はいいかもしれませんが実際筋肉は成長しません。
その証拠に多くの広背筋下部を鍛えるアドバイスや筋トレ種目は広背筋の収縮感が強いものであることがわかります。これは広背筋が下に集まることで下部が鍛えられている感覚があるためです。
しかし本当はそこまで鍛えられていません。
それでは感覚ではなく筋肉の成長を最大化させるためにはどういった鍛え方がいいのか。
2008年のオーストラリアで行われた研究では広背筋の筋繊維を上部、中部、下部に分けて筋肉の活動を調査しました。この研究では広背筋が最も強く働く運動である、肩関節の伸展と内転の0度から120度の範囲を調査しました。
まずは肩関節の伸展時の広背筋の活動を調査したところスタート時おおよそ100度までは3つの部位の筋活動はほとんど同じでしたが、どんどん上部の活動が高くなっていき、中部と下部は上部と比べると半分程度の筋活動しかないことがわかりました。
そして、肩関節の内転ではピーク時の90~80度の範囲では広背筋の中部と下部の活動が高いことがわかりました。
肩関節の伸展と内転の区別があまりわからないからどういった運動か教えてほしいという人に説明するとニュートラルグリップや逆手でのロウトレーニング、そしてクローズグリップや逆手でのラットプルダウンのような脇を閉じて引っ張る運動は伸展運動です。
広背筋下部を鍛えるときはこういった種目よりも回内グリップの懸垂やラットプルダウンのように脇を開いてヒジを横に出しながら引っ張るタイプのほうが優れている可能性があります。
これには明確な科学的説明はできませんが、広背筋の下部は最初にも話した通り下部だけを構築する筋肉ではなく外側を走る筋肉であるため脇を開きながら横向きに引っ張ったほうがこの外側の筋繊維にとって理想的な運動であるのかもしれません。
広背筋下部を鍛えるとき、主に伸展を使ったトレーニングが推奨されますが、これは下部に筋ん線維が集まることによって効いてる感があるだけです。こういったBro Scienceを基にした鍛え方よりも脇を開いて体の前ではなく横に引っ張る内転タイプの種目がおすすめです。
広背筋下部を鍛えるときは肩関節の内転を使うと効率的に鍛えられることがわかります。
肩関節の内転を使って広背筋を鍛える種目は、回内グリップのワイドなラットプルダウンや懸垂が代表的です。ただ、最新のデータを見るとそれは理想的ではないかもしれません。
ラットプルダウンではウエイトを真下に引っ張っているように見えますが、実際は肩を中心にした円運動を使用しています。
つまり、内転運動のストレッチポジション、上部では横向きの力が必要であり、広背筋のストレッチポジション真上ではなく少し内側にありますが、一般的なラットプルダウンや懸垂では横方向の力がなく垂直の深しかからないので広背筋のストレッチ不足が起こります。
実際懸垂の様にぶら下がるよりも少し横向きに引っ張ったほうが広背筋のストレッチを感じられ、これが内転のストレッチポジションには横向きの力が必要である証拠です。
ストレッチポジションの筋肥大効果についてあまりよく知らない人は少しおかしな筋トレ法に思うかもしれませんが、最近の研究では柔軟体操のように筋肉を強く伸ばすだけでカーフレイズトレーニングと同じ筋肥大効果があったり、ストレッチを入れたフルレンジモーションよりもストレッチ部分を集中的にやるロングレングスパーシャルのほうが筋肉をより成長させられる可能性があるようにストレッチポジションは筋肉の成長にとって超重要ですあることがわかっています。
特にストレッチのかからない種目からストレッチのかかる種目に切り替えると筋肉の成長効果が爆発的に増えます。
そのため、先程解説した通り収縮感を追い求めた筋トレ法はそもそも下部を活性化させないのと同時にロウのような種目はストレッチがないため、広背筋はあまり成長しない可能性が非常に高いです。
広背筋下部を最短で成長させるためにはこの状態から引っ張るシングルアームのケーブルラットプルダウンを行うと広背筋に最大のストレッチがかかり、多くのデータに示されているように広背筋の成長が促進される可能性があります。
このトレーニングをするときはグリップを使用してもいいですが、ケーブルのヘッドをそのままつかむやり方がおすすめです。身長などにもよりますが、ケーブルは一番高い位置、または腕を上げて、その最高点に設定するのがいいでしょう。最初に腕を外転させて広背筋を伸ばします。この時、ストレッチを最大までかけるためにも出来るだけ体は直立して横向きの力をかけるようにしましょう。
そしてこのままヒジを曲げたり伸ばしたりせず真横に腕を下げます。注意点としてビハンドネックのように頭の後ろや頭の腕真横に引っ張ると肩のケガの原因になるため一般的なラットプルダウンのように頭の少し前で引っ張るようにしてください。
可動域については腕が肩の高さになるまで、おおよそ90~100度程度引っ張ればOKです。勢いよくやる必要はありませんゆっくり丁寧に行いましょう。
このトレーニングの一番おすすめなのが低重量高回数で限界まで行うことです。
多くの研究者が同意しているように高回数トレーニングはおそらく筋トレ業界で最も過小評価されている筋トレ法です。
2017年のレビューペーパーには強度と筋肉の成長についてのデータを分析したところ、負荷が変わっても同じボリュームなら筋肉の成長効果は同じであるということが示され、2021年の最近行われた新しいレビューペーパーでも同様のことが示されており、1RMの30%から80%のまでの範囲の回数は筋肉の成長効果は同じであることが発見されました。
ただし、低重量も高重量も筋肉の成長効果は同じであると考えてOKですが、実際筋トレ効果は同じではありません。これは同じ時間や同じ努力量でトレーニングをさせるとほぼ間違いなく低重量高回数のほうがVOLが高いため筋肉が成長します。
2016年の調査ではこの理論を裏付けており、筋トレ経験のある被験者が25~35回の高回数トレーニングと8~12回の低回数トレーニングで8週間筋トレを指示したところ高回数トレーニンググループのほうが研究期間でより多くのトレーニングボリュームを確保できたことを示しています。この研究では被験者の行ったセット数や追い込みなどは全く同じにしており、変えていたのは扱うウエイトだけでした。
低重量高回数グループの合計ボリュームはベースラインから+31305kgの値を確認しましたが高重量低回数グループは+10714kgだけでした。
ボリュームが高いということは、より筋肉が成長することを意味します。
2023/3月に公開された最新の研究では101人の被験者を12週間の全身トレーニングを週3回、8~12repグループと10~15repグループで分けたところ8~12repのグループよりも10~15repグループのほうが2倍以上大幅に筋肉が成長していることを発見しました。(2.5vs6.)
広背筋下部を成長させるためには高重量の加重懸垂を持ち上げるよりも低重量高回数のケーブルラットプルダウンのほうが効率的である可能性が高いです。
注意点としては50repを超えると筋肉の成長効果が大幅に下がる可能性があるため30~40repの範囲で鍛えるのがおすすめです。そして高回数トレーニングの注意点としてウエイトを持ち上げるときは低重量であるほど限界まで追い込むことが重要になってきます。
これは低負荷は高強度のものほど1rep目では筋繊維を動員できないためです。そのため、持ち上がらなくなるまで、それかその寸前までこのトレーニングを行うようにしましょう。
そうすると高いだけではなく高品質なトレーニングボリュームが確保できるため広背筋下部の成長が爆発的に伸びる可能性があります。
BroScienceに基づいたトレーニングの場合広背筋が強く収縮する種目が下部を成長させるといわれますが、実際は広背筋下部を成長させたい場合は内転種目で腕を横に開きながら引っ張ったほうが、外側と下部を構築する筋繊維を多く動員できる可能性が高いです。
そして、ストレッチのかかる種目を選択すると筋肉がより成長する可能性が高くなるため、ケーブルを使ったシングルアームのラットプルダウンがおすすめです。これにより懸垂などには絶対にない横向きの力がかかります。そして最短で成長させたい場合は高いボリュームが必要であるためこの種目を30repの高回数で行うようにしましょう。
これを守れば間違いなく、広背筋下部のラインが構築され、背中の印象が劇的に変わります。