筋肉を成長させるための科学的データは日々進化しており、次々と新しい論文が出版されることによって否定されてきた常識もあれば新しく出てくる常識もあります。
ドロップセット、MYOレップ、レストポーズ、全身法、スーパーセットなど様々ありますが、この動画では全世界のトレーニーが注目しているあるトレーニングテクニックの効果や正しいやり方について科学的に徹底解説します。
日本ではあまり聞いたことがない人も多いと思いますが、アメリカはじめ多くのフィットネス先進国のトレーニーは「ああ、あれね」というくらい近年のボディビル業界をにぎわせています。この記事を見れば自分のトレーニングがひとつレベルアップすること間違いなしです。
本格的なボディビルコンテストが始まって100年近くがたとうとしていますが、今までの常識として筋肉の成長には全可動域、FullRangeOfMotionが最適だと考えられてきました。ダンベルカールではヒジを最大まで伸ばしてからこれ以上曲がらない限界まで曲げて、スクワットでは深くしゃがんでからヒザがロックするまで伸ばすことが正しいとされてきました。
しかし、ここ数年の間でこれを揺るがす「ロングレングスパーシャル」について多くのデータが発表されています。
きっかけは筋肉が伸びる状態、ストレッチポジションが筋肉の成長にとって最も重要であることが判明したことです。プリチャーカールを例にするとこの位置が筋肉の成長の多くを占めているということになります。
実際、収縮ポジションのみの部分可動域とストレッチポジションのみの部分可動域について調査した8つのデータではそのうち7つがストレッチポジションのみの部分可動域、ロングレングスパーシャルを支持しており、残りのひとつは両グループ違いはなく、ショートレングスグループを支持する研究はなかったため、ショートレングスよりもロングレングスパーシャルのほうが優れていることはほぼ疑いようありません。
このデータはトレーニングの常識に一石を投じました。
例えば最大可動域のプリチャーカールは部分可動域のものよりも筋肉の成長効果が高かったというデータがあったとしましょう。このデータを今までは「最大可動域が部分可動域も優れているんだ!」と考えていました。
しかし、それは最大可動域がいいっていうわけじゃなくてこの筋トレ効果の差はストレッチポジションを行ったかどうかの差であり可動域の広さが原因ではないかもしれない。そして、収縮ポジションは筋肉の成長にとってあまり重要ではないならここをカットしてストレッチポジションを重視した部分可動域のほうが筋肉を成長させられるのではないかという疑問が研究者の頭の中にわいてきました。
実際に研究者がこれを調査してみると驚くべきことがわかりました。全可動域フルロムと部分可動域ロングレングスパーシャルの比較を行ったところ5件中4件がロングレングスパーシャルのほうが有利であることを示しました。
もうひとつの研究は両可動域に差はなく、ショートレングスパーシャルよりもロングレングスパーシャルのデータと同じでフルロムグループを支持するデータはありませんでした。
実際これは多くの専門家やボディビルダーに衝撃を与えてパーカーフィットネス自身もトレーニングの考え方を一新するきっかけとなりました。
一部のトレーニーはこれらの証拠を誇張している、都合のいい研究だけを載せて目立とうとしてると考えるかもしれませんが、おそらく現段階で最も説得力のある2023年の3月に公開された最新のメタ分析の著者であるmilo wolf博士はロングレングスパーシャルにかなりの自信を持っているようです。
実はこの理論を発見したのは30年前で、1993年の古い研究ではウズラがストレッチポジションで負荷を受けた場合、その羽が異常なほど成長することを発見しています。
おそらくこれは人間にも当てはまり、トレーニングで筋肉が伸びる位置を集中的に行うのが効果的である可能性が高いです。そのため、トレーニング効果が再注目された種目も多くあります。例えばダンベルフライは数年前まではしっかり負荷がかかるポイントはほんの少ししかなかったため否定的な目を向けられていましたが、ロングレングスパーシャルのデータにある通り、これは大きな問題にはならない可能性が高いです。
ショートレングスでのみ負荷のかかる種目は最悪ですが、ロングレングスでのみ負荷のかかる種目は効果的なトレーニング種目です。
このテクニックをジムで活かす前に注意点がいくつかあるので抑えておきましょう。
ウルフ博士も話していますがロングレングスパーシャルは世界を変えるような効果はありません。研究データを見るとショートレングスパーシャルとは筋肉の成長効果が2倍以上になっていることも珍しくありませんが、フルロムと比較して筋肥大効果は+10%程度であると答えているようにこのテクニックの過大評価には注意してください。
加えてレビューにも示されている通りストレッチポジションのデータは基本的には腕、そして脚に集中しています。筋繊維の性質上、ストレッチポジションの筋肥大効果が肩や胸に当てはまらないという可能性は低いと思いますが、腕と脚以外の部位の研究データは不足していることは間違いありません。
数年前に広まったトレーニングテクニックにPOF法というものがあります。これには問題がいくつもあったため海外ではあまり流行しませんでしたが。筋肉の損傷を与えるためにダンベルフライなどの筋肉を強く伸ばす種目を作るというものがありました。
筋肉の成長にとって筋繊維を傷つけることにメリットはあまりありませんが、輪ゴムを強く引っ張るとちぎれてしまうように筋肉を伸ばすということは狙っていなくても筋肉を過度に傷つける可能性があります。特にフルロムよりもこの可動域にフォーカスするロングレングスパーシャルはこの傾向が強く、人によっては強い筋肉痛や痛みを伴う可能性があることに注意してください。
ただし人間のRBE(Repeated Bout Effect)によって回復能力は適応していき、痛みは徐々に引いていき、別のデータでは筋肉痛の時にその部位をトレーニングしてもデメリットがほとんどないことが示されているため痛み自体にはあまり心配する必要はありませんが、筋肉のダメージと回復能力が釣り合っていないと筋肉の成長が大きく損なわれる可能性があるため睡眠、食事にはより注意しましょう。
当然ですがストレッチポジションで負荷がなければ意味がありません。ダンベルカール、サイドレイズ、ダンベルキックバックでロングレングスパーシャルをしても元々上腕二頭筋はこのトレーニングで伸ばされたため、負荷がない部分を集中的に行っても意味がありません。
こういった種目はそもそもやること自体避けたほうがいいと思いますが、ストレッチポジションでしっかり負荷のかかる種目でこのテクニックを使いましょう。
パーカーフィットネスはこの記事がきっかけで明らかなチート行為を「ロングレングスパーシャルだから」と正当化するトレーニーが出ないことを祈っています。
このテクニックはチートと紙一重です。賢いトレーニングテクニックは少しのミスでエゴリフティングという愚かなトレーニングに変化します。これはウエイトのコントロールを失うことが最大の原因です。明確なラインとして少しでも体の勢いを使っていたりバウンドを使っている場合それはチーティングと断言していいでしょう。
おすすめとしてはストレッチポジションで一時停止させてから持ち上げるのが効果的で正しいロングレングスパーシャルです。
ロングレングスパーシャルはどれくらいパーシャルであるかは非常に重要なポイントです。例えばロック寸前でやめればいいのか。それとも少し収縮させる程度のかなり狭い可動域でいいのか。おすすめとしてはフルロムの半分以下です。2008年の谷本らによって行われた研究では、2つのグループはマシンスクワット、チェストプレス、ラットプルダウン、クランチ、バックエクステンションの5つの種目を潰れるまで行いましがひとつのグループはスクワット、チェストプレス、ラットプルダウンで関節がロックアウトすることを回避していました。その結果筋肉の成長について統計的な有意さはあまりなかったため、ヒザのロックやヒジのロックの寸前程度でやめるよりも、半分以下の可動域にするのがいいでしょう。
実際、ロングレングスパーシャルの効果を示した研究は最大可動域の10%以下の範囲であったため、ラットプルダウンやベンチプレスでは少なくともヒジやヒザなどの関節が90度になる位置でストップさせる程度がいいでしょう。
ロングレングスパーシャルでは自分の限界に近いものや挑戦する重量でのトレーニングはウエイトのコントロールを失うためおすすめしません。例えばスクワットで膝のロックをして一瞬の休憩をとることで、自分は次のレップ行けるのかを判断しますがロングレングスパーシャルの場合スクワット中ヒザはずっと曲がっている状態であるため大腿四頭筋にずっと負荷がかかっており、落ち着いて次行けるのかという判断する瞬間がありません。
加えてこのトレーニングは経験している人が少ないため自分の限界がわかりづらい傾向にあります。スクワットやベンチプレスで「多分次行ける」と思っても自分の予想と反してレップの途中で潰れるということがあるため、マシンなどで行うかフリーウエイトでも自分にとってコントロール出来る負荷で行うのがおすすめです。
ここからはロングレングスパーシャルのおすすめの使い方について紹介します。当然ながらロングレングスパーシャルについてのデータはお世辞にも十分とは言えません。ショートレングスとロングレングスについてのデータは比較的多くあり、ウルフ博士も話している通りショートレングスパーシャルが常に最悪であるということはほぼ間違いないと思いますが、ロングレングスパーシャルについてのメタ分析やレビューは1件しかなくフルロムよりも優れているといえるだけの証拠は断言できるほどは足りていません。
そのため、現段階ではフルロムとロングレングスパーシャルを組み合わせるのが最善であり、今のトレーニングすべてをロングレングスパーシャルに変更させるのは早すぎると考えます。
最も代表的なテクニックは途中でフルロムからロングレングスパーシャルに切り替える方法です。例えばチェストフライをフルロムで行い、持ち上げることができなくなったらロングレングスパーシャルに切り替えます。
手がくっつくまで水平内転を行って持ち上がらなくなったら可動域を半分程度にしてまた限界まで行うことでフルロムとロングレングスパーシャルの両方を取り入れることができます。注意点としてこのトレーニングは限界のさらにまた限界に挑戦するためかなりハードで疲れたり、回復に問題が出る可能性があります。3setこのトレーニングがあるなら最後の1setだけ、というのがいいでしょう。
疲労感が気になる人や最後のセット以外でもこのテクニックを使用したいという人は1rep目フルロム2rep目ロングレングスパーシャルというようにレップごとに2種類の可動域を交互に行ったり、全身トレーニングをしている人は今日はフルロム日、明日はロングレングスパーシャル日というように火によって分けるのもいいでしょう。
フリーウエイトトレーニングというよりもマシンやケーブルトレーニングで使用するのがかなりおすすめです。ベンチプレスやスクワットで行うなら自分のMAX重量の60~70%で試すのがいいでしょう。高重量のスクワットやベンチプレスでこのテクニックを使用するのはかなり危険です。
ロングレングスパーシャルトレーニングは近年の科学的なデータによって信頼性が高まっている鍛え方です。今までの常識とは全く異なるトレーニングテクニックであるため信じがたいという人もいるかもしれませんが、現在このトレーニング法のみなさんが信頼性は思っているよりもずっと高いといってもよく、この鍛え方の信頼性は来年もっと強くなってると考えていいでしょう。
チーティングや潰れる可能性には注意してください。コントロールできる負荷でストレッチポジションで一時停止できるような負荷が適しています。そして、必ずフルロムと組み合わせてください。言わなくてもわかるわと突っ込まれそうですがプリチャーカールではヒジが伸びきるまで、スクワットでは限界まで深くしゃがむまで、最大ストレッチを基準にしたパーシャルレップです。中途半端なストレッチでのパーシャルレップではありません。全ての種目でこれ以上筋肉が伸びないというくらい伸ばしてから関節が90度になるのを目安に持ち上げましょう。