腕を太くする。腕の外見を変えるために鍛えるべき筋肉は「上腕二頭筋」「上腕三頭筋」「前腕」この3つは誰しも知っていますが、上腕の下部に位置する上腕筋という上腕二頭筋の下に隠れている筋肉は無視されがちです。
ただ、アーノルド・シュワルツェネッガーを見たらわかる通り発達した上腕筋は上腕二頭筋と三頭筋の間に明確な違いを生み出し、理論的には上腕筋が上腕二頭筋を押し出すことで腕のサイズが大きく変わることが考えられます。
ただし、上腕筋の鍛え方について科学的データは多くありません。驚くべきことに研究を調べてみるとこの筋肉の教科書的な鍛え方には科学的な根拠があまりないことがわかりました。この動画では上腕筋について、科学的なデータと鍛え方、最強種目について解説します。
上腕筋はヒジ関節にまたがる筋肉です。ヒジを曲げる肘関節の屈曲に関わりますが、この運動には上腕二頭筋、腕橈骨筋も働きます。基本的にこの筋肉は上腕二頭筋の下にあるため目立つ筋肉ではありませんが、この筋肉を成長させることで上腕二頭筋が押し上げられます。
興味深いことに上腕筋は腕橈骨筋の2倍もの大きさがあり、上腕二頭筋とはそこまで変わらないサイズを持っています(46、37、17)。筋肉はもともとのサイズが大きいものほど成長する用も大きい傾向にあるためこの筋肉を成長させると上腕二頭筋を成長させるのに匹敵するほどのサイズ増加があります。
腕のサイズを最大化させる場合は上腕筋を無視するのは最適ではないでしょう。
上腕筋はヒジの屈曲筋であるため、カールトレーニングによって機械的な緊張を受けます。それではいったいどういったタイプのカールがこの筋肉の成長にとってベストなのでしょうか。
一般的には回外グリップのような手のひらを上にしたカールは上腕二頭筋、回内グリップのような手のひらを下にしたカールではそれ以外の筋肉と考えられているため、腕橈骨筋、そして上腕筋を狙うときは回内グリップやニュートラルグリップにしたほうが良さそうと考えられます。
しかし、カナダで行われた古い研究では驚くべき結果が得られています。被験者がアンダーハンドグリップ、一般的な手のひらを上にしたカールです。このマシンプリチャーカールを行ったところ上腕二頭筋の筋断面積が8.3%増加しましたが、上腕筋の筋断面積は37.6%の増加であったことを示しています。
理論的には手のひらを上にして前腕を回外すると上腕二頭筋が飛び出すため、上腕二頭筋の収縮を感じたり、良く見えたりする場合があります。確かに2023年の2月に公開された新しい研究では10人のボディビルダーに回外、回内、ニュートラルのケーブルカールを行わせたところ、上腕二頭筋の活動は回外グリップ、ニュートラルグリップ、回内グリップの順番で高かったことを示していますが、それはコンセントリックフェーズでのみ起こり、ニュートラルグリップと回内グリップでボディビルダーは三角筋前部の活動が大幅に高くなるテクニックを使っていたためこのトレーニング中にヒジ関節の屈曲のみが行われていたかどうかは疑問です。
実際のところ筋肉の成長や活動について持ち方によって腕の筋活動が変わることを裏付けるデータはかなり不足しています。
特に説得力があるのは懸垂やラットプルダウン時の上腕二頭筋の活動です。懸垂ではグリップや手幅によって上腕二頭筋の活動は変わらないという多くのデータがあります。例えば2015年の研究では回内グリップのラットプルダウンと回外グリップのバーベルカールでは上腕二頭筋の成長が同じであることがわかりました。
そのため、カール中のグリップ、ウエイトの持ち方はどんな方法でもおそらく違いがないか、もしくはかなり小さい影響しかない可能性が高く、menno henselmans博士も前腕の位置が上腕二頭筋の活動に及ぼす影響は一貫性がなく小さいと答えています。ただし、前腕の後部を鍛える場合は回内グリップにすることで手首の伸展で負荷がかかるようになるため間接的に前腕後部への負荷が強くなりますが、上腕筋はどの持ち方でも筋肉の成長に違いはないでしょう。
ただし、ダンベルやバーベルの持ち方がわかってもカールにはかなり多くの種目があります。残念ながら上腕筋を隔離して筋肉の成長効果を調べた研究はカナダで行われた古い研究以外見つけることができませんでしたが、他にも上腕筋について調べたいくつかの研究があるため、それらを調べることで上腕筋に取って最適なトレーニング法がわかります。
2023年のスペインで行われた新しい研究ではアンダーハンドグリップのプリチャーカールとアンダーハンドグリップのインクラインカールの筋肥大効果について調査をしました。研究者は肩から肘にかけての50%、60%、70%の位置で上腕二頭筋と上腕筋を合わせた部位での厚みを測定したところ、筋肉の成長効果はプリチャーカールのほうがより優れていました。
原因としてインクラインカールはヒジが伸びきったときに地面と垂直で、重力と同じ向きになるため負荷がありませんが、プリチャーカールはヒジが伸びきった位置でも負荷がかかるため筋肉がより成長したことが考えられます。
ストレッチポジションは筋肉に最も負荷のかかる可動域です。例えばダンベルカールとプリチャーカールではしっかり肘が伸びるまでウエイトを下げていたらほぼ100%の人はプリチャーカールのほうが扱える重量は軽くなります。これはダンベルカールでは一番機械的な緊張がかかる場所で負荷がないため楽に持ち上げられるためです。
一般的にはストレッチ、科学的なデータではロングレングス、筋肉が長くなることを指しますがここで最も負荷がかかる種目のほうがダンベルカールなどショートレングス、筋肉が収縮して短くなった時に負荷が一番かかる種目よりも筋肉が成長することを示しています。
そのため、上腕筋を鍛えるときは握り方は問題ではなく基本的に上腕二頭筋にとって最高の種目は上腕筋にとっても最高である可能性が高いです。
腕の太さを増やす上腕筋を鍛えるときは回内、オーバーハンドグリップやニュートラルグリップが最適といわれますが科学的なデータを見るとそう判断するためのデータはかなり不足しています。ニュートラルグリップにすれば前腕だけではなく上腕もやや内側に回転し、上腕筋の部分が上を向くためこの方法で優先的に鍛えられるとよく言われますが、回外グリップでのカールが上腕二頭筋を強調させないようにそれが筋肉の成長を促進させるとは考えにくいです。
プリチャーカールは上腕筋の成長にとってベストなトレーニングのひとつです。基本的には握り方は何でも構いませんが、ストレートバーのバーベルカールの場合、手首にややストレスがかかるのでEZバーのほうがおすすめです。
EZバーのどの部分を持つかは重要ではないので握りやすいほうでOKです。
この種目は腕を下げた時にストレッチがかかるので成長効果が大幅に増えますが、注意するべきポイントがいくつもあるので注意してください。
間違えると筋トレ効果が半減します。
まず気をつけるべきは上腕の角度、プリチャーカールではパッドの角度が固定されているため、座席の位置を高くすれば腕が垂直に限りなく近くなり、低くすれば水平に限りなく近くなります。水平にしすぎる必要もありませんが腕が垂直になるのは避けましょう。
垂直になればなるほど腕の筋肉のストレッチが弱くなります。
プリチャーカールの腕の角度を水平にするとフリーウエイトの性質上上部では負荷がほとんどないためヒジの屈曲角度がかなり狭くなります。しかし、これは筋肉の成長にとって大きな問題ではありません。
2022年の8月の研究では45歳の若い女性にレッグエクステンションを行わせ被験者を3つのグループに分けました。ひとつは収縮可動域を重点的に行うファイナルROMグループ、もうひとつはストレッチのかかる可動域のみを重点的に行うイニシャルROMグループ、そして両方のグループを合わせた可動域を行うフルROMグループの3つで最も筋肉が成長したのはイニシャルグループであったように可動域がある程度あればその関節の最大可動域で鍛えることは必須ではありません。
ただし完全に水平だと負荷がかかる場所がほとんどないため、おすすめとしては水平からマイナス30~45度がおすすめです。完全に肘を伸ばし切りストレッチをかけましょう。注意点としてプリチャーカールのような種目はヒジ関節の伸展によって筋肉が伸ばされるため、ヒジ関節の安全な向きとは逆に過伸展がかかります。
そのため、高重量だったり勢いよくウエイトを戻すとヒジを痛める可能性があるため注意してください。痛む人は軽い重量でトレーニングするのがおすすめです。筋肉に機械的な緊張を与えるためには低負荷でも高負荷でも関係がないため軽い負荷でも筋肉は成長します。
上腕二頭筋の下に隠れている上腕筋を成長させると、腕の太さが上腕二頭筋、三頭筋に追加して増えるため筋肉の成長を大幅に増やすことができます。科学的なデータを見ると上腕筋だけについての科学的データはかなり不足しているため、断定はできませんがおそらく一般的に言われているようなグリップによってヒジの屈曲筋の活動に大きな差が出る可能性はかなり低いと思います。
基本的には上腕二頭筋にとってベストな種目は上腕筋にとってベストな種目だといえるため、上腕二頭筋を鍛えている人にとっておそらくこの筋肉を隔離して鍛える必要はないと思います。
アーノルドシュワルツェネッガーやフィルヒースの上腕筋があれほど目立つのは上腕筋を特別狙っているからではなく単純にすべての筋肉のサイズがすさまじく巨大であるからでしょう。加えて上腕筋が目立つためにはある程度体脂肪を落とす必要があるため、コンテスト準備期間中の人でない限りこの筋肉がくっきり浮き出るということはあまりありませんが、間違いなく上腕筋を成長させると腕の太さが大幅に向上するため目立たない筋肉だとしても上腕二頭筋や腕の太さのためにはかなり重要な筋肉です。