懸垂は最も原始的で優れた広背筋ビルダーです。必要なのはあなたの体とそれにぶら下がる環境だけ。
トレーニングではこの種目をスキップしてバーベルやダンベルを持ち上げる運動を好む人が多いですが、実はバーベルやダンベルを持ち上げるよりも懸垂のほうが広い背中、広背筋を作るうえで優れています。
ただし、懸垂には潜在的な落とし穴があり、これを理解して正しくやらないと懸垂は全く効果のないトレーニングにもなります。
この動画では科学的なデータや専門家の意見を基に背中の広がりを作るための懸垂と背中の広がりと懸垂の力を伸ばす筋トレメニューについて科学的なデータを基に解説します。
懸垂で使用される筋肉は背中全体の筋肉、特に広背筋。そして腕にある上腕二頭筋です。その中でも特に活性化されるのは広背筋と上腕二頭筋です。
懸垂やラットプルダウントレーニングについて「ワイドにすると広背筋」「ナローにすると上腕二頭筋」といわれたことがある人も多いと思います。しかし、これについての科学的な根拠は非常に乏しく、迷信といっても過言ではありません。
ラットプルダウンのグリップについて比較した研究では被験者を3つの手幅に分けて背中、そして上腕二頭筋の筋活動について調査をしたところ筋活動はほとんど同じであったことを示しています。
加えて別の懸垂についての研究では4つの様々なグリップで比較をしたところ広背筋や上腕二頭筋の活動に有意な差はありませんでした。
回内グリップでの懸垂はヒジ関節の屈曲と肩関節の内転を使った運動ですが、グリップは固定されていてスタートでもフィニッシュでも同じ広さになります。そのため、ヒジが内側に屈曲する運動が追加されることで上腕二頭筋も強く関与します。
回外グリップでの手幅を狭くした懸垂では肩関節の伸展によって広背筋に機械的な緊張を与えますが、横から見るとヒジが屈曲する向きに負荷がかかっているため上腕二頭筋が関与します。
つまり、解剖学的な運動の強度はお互いほとんど違わないため、科学的なデータでも上腕二頭筋や広背筋の活動が変わらないというのは理にかなっています。menno henselmans博士はラットプルダウンや懸垂のグリップによって上腕二頭筋や広背筋の活動に違いを感じるのはその人の表面的な感覚に基づいていると答えてます。
筋活動と効いてる感はイコールではありません。例えばダンベルカールのほうがプリチャーカールよりも筋肉の収縮や効いてる感覚があると思いますが、筋肉の成長効果は間違いなくプリチャーカールのほうが高いです。加えてほとんどの人は逆手での懸垂を腕に効くと思いながら行っているため筋肉の収縮を強く感じる傾向にありますが、基本的にはどのグリップでも背中や腕にとって効果は同じであるため、視聴者の方の好きなやり方で問題ないです。
広背筋が爆発的に成長する懸垂には重要なポイントが3つあります。この3つのうち一つでもクリアできていなければ懸垂の効果は正しいものと比べても良くて半分以下、悪いとほとんど意味のないものになります。
まず最初は正しいフォーム。全てのトレーニングにおいて正しいフォームでトレーニングすることは非常に重要です。特に懸垂は「ワイドにすると広背筋」「ナローにすると上腕二頭筋」といったような科学的な根拠のないフォームややり方が非常に拡散されており、筋トレの教科書通りのフォームが実は間違ってることも非常に多いです。
ひとつ目のポイントは手幅。あれ、さっき広くても狭くても同じじゃなかったっけ。確かにその通りです。基本的には狭くても広くても広背筋や上腕二頭筋など懸垂で一番活性化される筋肉の活動は同じです。しかし、ひとつだけ最悪な懸垂があります。
それは過度なワイドグリップにすること。ラットプルダウンでも同じですが過度なワイドグリップは広背筋の成長にとっては間違いなく適していません。
理由の一つにケガのリスクが高いこと。2016年の研究では被験者に3つの手幅やグリップで懸垂を行わせたところ、回内グリップで非常にワイドな手幅はインピンジメントのリスクを高めて肩のケガのリスクを増やすことがわかりました。
加えて広背筋のストレッチが無くなります。ストレッチポジションは筋肉に最も緊張がかかり、成長を促す可動域です。一度やって頂いたらわかりますが、かなりのワイドグリップにすると体を降ろしても広背筋が伸ばされる感覚がないことがわかります。
これは広背筋は上から下に引っ張る運動によって働く筋肉であるため過度なワイドグリップにすると縦方向の可動域が無くなることが原因です。これはケーブルマシンでほとんど横から引っ張っているのと同じ物理的な負荷になります。背中の筋肉の成長にとっておそらくラットプルダウン、懸垂では過度なワイドグリップは避けたほうがいいでしょう。
そして、もう一つ正しいフォームのポイントはストレッチポジションでの負荷です。広背筋は肩関節の内転によっても活性化されますが、その物理的な負荷は真っすぐ下向きではありません。例えばビハインドネックのように腕をほぼ真横にした状態ではバーが頭上にあっても広背筋は伸ばされていません。これは背中の筋肉は三角筋中部のように体の真横についている筋肉ではなく、後ろについている筋肉であるからです。そのため、理想的な肩関節の内転は真っすぐ下ではなくほんのわずかでもいいので前から後ろに引っ張る運動が必要です。
理想的な負荷の向きにするのは非常に簡単です。体を少し傾けるだけで負荷の向きを変えられます。懸垂をするときは顔を上げてゴールを見て大胸筋上部をそこにくっつけるイメージで引っ張ると体が傾くため広背筋にとって最適な運動になります。
そしてふたつ目のポイントは重量を追加すること。
懸垂で負荷を追加していくメリットはふたつあります。ひとつは強度不足を防げること。自重トレーニングの最も多い落とし穴はこれです。筋肉の成長とトレーニング強度について調べた研究では限界までやったときにおおよそ5rep以上40rep以下なら筋肉を成長させるのに十分です。しかし、その数字を超えてしまった場合、筋トレの効果は大きく落ちます。
2018年の研究では上腕二頭筋カールとレッグプレスを被験者に週2回12週間実行させました。被験者は持ち上がらなくなるまでウエイトトレーニングを行いましたが、1RMの20%、40%、60、80%という4つのグループに分けられました。
結果としてボリュームは等しかったため40~80%のグループは筋肥大効果がほぼ類似していましたが60rep近い回数ができた20%のグループだけ半分程度しか筋肉を成長させることができませんでした。
懸垂ではあまりないと思いますが、このようにあまりにも軽すぎると筋肉が成長するのに不十分な可能性があります。
そして、もうひとつはプログレッシブオーバーロードができること。プログレッシブオーバーロードというのはトレーニングと同時に自分の最大筋力を伸ばすことです。最大重量を伸ばすことは多くのデータで筋肉の成長にとって効果的であることがわかっています。
背中の広がりを最短で作る場合は懸垂の重量をどんどん伸ばしていくことが非常に重要です。マシンでアシストを使っていた人なら自重、自重でやっていた人なら加重ベルトでウエイトを追加していきましょう。
そしてもうひとつはバリエーションのマンネリ化です。最新の筋肥大と種目数のレビューペーパーによると多すぎると逆効果になりますが、筋トレはある程度のバリエーションで鍛えると筋肉の成長が促進されるようです。
これに加えて筋肉の成長のためには様々な角度やバリエーションで鍛えることが必要という多くの科学的なデータがあります。例えば2021年の研究では被験者を固定エクササイズグループとして体の前面に引っ張るラットプルダウンをやり続ける被験者と体の前面に引っ張るラットプルダウンに加えてビハインドネック、そしてナローグリップの3種類でトレーニングをする変化エクササイズグループで比較したところ複数の種目を行った被験者のほうが多くの部位で成長が確認され、追加効果がなかった部位でも固定させた被験者よりも効果が低いということはありませんでした。
そのため、複数のバリエーションで懸垂をしたほうが筋肉の成長が見込め、仮になかったとしても損はないためおすすめです。
懸垂のバリエーションは2つあれば十分です。回内グリップでの懸垂、そして回外グリップでの懸垂。この2つを行いましょう。
最後のチャプターでは背中の広がりを最短で構築するための懸垂トレーニングメニューを紹介します。まずこのメニューの前提としては高頻度でトレーニングをします。トレーニングの新しい常識として筋肉の成長や筋力の向上にとっては背中の日を作って週に1~2回背中を鍛えるよりも高頻度で毎日少しでもいいので筋肉を鍛えたほうが成長する可能性が高いことを示しています。
詳しい理論は全身法の動画で解説しています。
最初は筋力アップを目的とした懸垂です。回内グリップのプルアップ、回外グリップのチンアップどちらでもOKですが得意な方がおすすめです。パーカーフィットネスは回内グリップのタイプが好きなのでそっちで行います。
最近行われた新しいレビューでは150件以上のデータを分析したところ筋力の発達にはトレーニング強度が重要であることを示しているため、この筋力アップフェーズでは3~8repの高重量で行います。自重もしくは加重ベルトで負荷を追加して行いましょう。
高重量の懸垂でおすすめしたいのがストラップです。今年の10月に公開された研究ではトレーニング経験のある女性にデッドリフト中のリフティングストラップの影響について調査をしたところストラップを使ったほうが握力の限界を感じることなく多くの回数ができたことを示しています。
背中トレーニング、特に懸垂やデッドリフトでは高重量になると背中の力の限界というよりも握力の限界によって持ち上げられなくなることがあります。そのため、この筋力アップフェーズではストラップを使うのがおすすめです。回内グリップの場合は広すぎない手幅で肩幅かそれよりも少し広い程度の手幅で行うのが最適です。
きつくなってくると肩がすくみやすいので注意しましょう。筋力アップフェーズではボリュームよりも強度が重要なのでトップセットを作ってウォームアップを2setほどしてからメインセットの1setだけ本気でやるのがおすすめです。
筋力を上げるときにやってはいけないのがテンポを変えること。懸垂ができない人によくある筋トレ法ですが、ジャンプして降りるときだけ負荷を入れたりネガティブ動作だけゆっくりやったりするのはNGです。
今年の8月に行われた最新のレビューでも意図的に遅くするやり方は筋力の向上に適していないことを示しているため、懸垂ができない人はこういった方法よりもアシストマシンを使って単純に懸垂の負荷を全体的に下げることをおすすめします。
筋肉の成長には高負荷も低負荷もほとんど変わらないことを示していますが、それはトレーニングボリュームが同じ場合です。この場合筋肥大効果は変わりませんがほとんどの場合、高回数トレーニングのほうがVOLが高く、筋肉が成長する可能性が高いです。
そのため、10rep以下の高重量にこだわりすぎるとトレーニングVOLが低くなってしまうため背中の広がりも作りづらくなります。筋肥大フェーズでは懸垂を15~20repを目安に行います。
プルアップ、チンアップ、筋力アップフェーズで行った得意な方で行いましょう。懸垂を15rep以上でやる場合は多くの人の場合アシストマシンを使うのがおすすめです。
このフェーズでは3set懸垂をして1set目に20repかそれよりも少し多い回数行える負荷でトレーニングして、3set目に10repしかできないということがないようにします。必ずヒジは伸ばし切り、広背筋にストレッチをかけるまで体を降ろすようにしましょう。ラットプルダウンや懸垂ではストレッチをかける前に次のレップに挑戦する人がかなり多いので注意してください。
バリエーションフェーズでは筋力、筋肥大フェーズで行わなかったタイプの懸垂をします。パーカーフィットネスの場合はプルアップでしたのでこのバリエーションフェーズではチンアップを行います。チンアップが得意で筋力、筋肥大フェーズでこのタイプをやった人は回内グリップのプルアップを行いましょう。
チンアップの注意点としてはストレートバーでやるのはおすすめしません。違和感なくできる方なら全く問題ありませんが、多くの人の場合、ヒジを伸ばした時や腕を真っすぐにしたときに手首にかなり強いストレスがかかるためケガの原因になります。基本的にはニュートラルグリップかそれに近いやり方をおすすめします。
そして引っ張るときは脇を開いてヒジを少し横に出すように行います。手幅としては狭すぎてヒジが体に当たって引っ張り切れないくらいでなければ問題ありませんが、目安としては肩幅程度がいいと思います。
全ての懸垂に必要なのはストレッチポジションです。1rep毎に広背筋を伸ばすことは背中の広がり方を180度変えるといってもいいです。ラットプルダウンや懸垂ではヒジを伸ばし切らずにストレッチをかけないやり方をしている人が非常に多いので絶対にやらないでください。
これをやると回数や重量はこなせても筋肉の成長効果は誇張なしで半減します。
バリエーションフェーズでは筋肥大フェーズと同じくらいの回数で3set行いましょう。この3つをジムでトレーニングしている人はジムに行くたびに、家で筋トレしてる人は毎日順番に行いましょう。筋肥大フェーズではアシストマシンを使って30repで行うというのもボリュームが大幅に増えるため非常に効果的です。