大胸筋下部は過小評価されがちな部位でもありますが、大胸筋の中でもかなり外見的に重要な部位です。この下部を鍛えることによって出来る大胸筋のラインは胸をより立体的に見せ、この筋肉を強調します。
実際、上部や中部がどれだけデカくてもこの下部のラインがないと大胸筋はほとんど目立たず、乳首が下向きになっている人も大胸筋下部の成長不足である可能性がかなり高いです。
そのため、この部位を狙ってトレーニングしている人は少なくありませんが、実はこの筋肉は上部や中部と違ったポイントがあり間違ったトレーニングをするとどれだけ下部を鍛えてもこのラインはつきません。
この記事ではその大胸筋下部が成長しづらい人におすすめの鍛え方と最強種目について紹介します。
大胸筋は主に鎖骨から肩にかけてまたがっている大胸筋上部と胸骨から伸びる中部、肋骨から伸びる下部に分類されています。しかし、大胸筋の分け方について全ての研究者が合意している分類はなく、科学的データに基づくと大胸筋上部や中部や下部とは明確に神経支配が異なるため上部とその他という分け方もされます。
つまり、中部と下部には明確な分離はありません。おそらく視聴者の方の中には下部狙いの種目が無くてもフラットなプレスやフライで下部を構築できるという人もいますが、それだけでは不十分で中部ばかりが発達してバランスが悪くなるという人もいます。
目安としてフラットベンチプレスプレスが自分の体重と同じくらいの重量が上がるけどラインがうっすらも出ないという人は大胸筋下部が成長しにくいタイプである可能性が高いです。
実際パーカーフィットネスのトレーニング仲間のひとりにもベンチプレスは100kg以上持ち上げられるのに下部があまり発達せず、大胸筋のラインがほとんど出なかった人もいます。こういった人の場合大胸筋のサイズは十分あるのに下部のラインがないため、正面から見たときに胸の筋肉がほとんどないように見えたり、腕や肩だけが成長していてバランスが悪い体に見えたりする場合があるので非常にもったいないです。
しかし、そういった人は下部を集中的に鍛えて大胸筋のラインをつけるだけで胸の外見が一気に変わります。
大胸筋の筋繊維は斜め下に向かって伸びている筋繊維です。横の成分は肩関節の水平内転のように腕を真横に閉じる運動。下の成分は腕を下す伸展や内転によって活動するため、下部を狙うときは腕を閉じながらウエイトを下に引っ張る運動が最適であることが予想できます。
そのため、多くのトレーナーはデクラインのプレスやフライを推奨します。これはインクラインベンチプレスと逆に角度をつけることによって下部を狙う方法です。確かに脚を上げたり背中を下げることによって真横に行っていた運動に下方向の運動が追加されるため下部がより活性化されます。
しかし、実際デクラインのプレスでは下部の成長にとって不十分です。
2000年のバスキーによって行われた筋電図分析ではベンチ台の角度と大胸筋上部,中部,下部について調べました。このグラフは相対的なEMGであるため一般的な筋電図分析の値とは少し違うことに注意してください。この筋電図分析によると傾斜角度-15°のデクラインベンチプレスは一般的な常識とは違い大胸筋全体にとって非常に効果的なようです。
加えて2016年に行われた先ほどと似たEMG研究ではベンチ角度-15度のデクラインベンチプレスと0度のフラットベンチプレスでは大胸筋下部の筋活動は変わらなかったことを示しています。
デクラインプレスは確かに下部にとって理にかなった運動ですが先ほど挙げた研究を見るとデクラインプレスはフラットベンチプレスよりも大幅に大胸筋下部を刺激できるかといわれると微妙なところがあります。
特にフラットベンチプレスでも大胸筋下部がしっかり発達する人は別ですがフラットベンチプレスでは足りない、成長しないという人にはデクラインベンチプレスでは刺激が足りない可能性が非常に高いです。
これは筋繊維の向きを考えると非常に理にかなっています。上部の筋繊維は15~30度程度、少し上向きですが大胸筋下部は肩から肋骨に向かって伸びており大胸筋のラインを作るかなり下の方の筋繊維はかなり直角に筋繊維が伸びています。特に乳首が下を向いている人は下部の際のあたりの成長が不十分である可能性が高く下部を狙ったトレーニングが必要です。
これは実際自分で確認してみるとわかります。ベンチに座って片腕を伸ばしてフライのように腕を閉じてください。そうすると上部が収縮して固くなっていることがわかります。中部も言うまでもなく収縮しています。それでは下部を触ってみてください。
筋肉の緊張はほとんどないことがわかると思います。
上部や緩やかなインクラインプレス、少しの屈曲で十分上部狙いといえるだけの刺激が入りますが、下部は少しの内転では不十分です。強めの内転または伸展運動が必要です。
ただ、大胸筋下部を狙うときは伸展という解剖学的な運動では不利です。解剖学的な知識がある人ならわかると思いますが伸展と内転は広背筋とも重なっています。じゃあラットプルダウンで大胸筋下部は成長するのかと考えるとそれはかなり難しいということが想像できると思います。
これは伸展は腕を下げる運動ですが腕を前に出す水平内転の要素がほとんどないためです。伸展は基本的には腕を下げますが前から後ろに引っ張る運動でもあるため大胸筋下部が強く活性化されることはありません。
筋電図分析でもダンベルプルオーバーはフラットバーベルベンチプレスの4割程度しか大胸筋を活性化していないことがわかります。大胸筋下部を鍛えるときは内転を使いましょう。ウエイトを後ろから前に引っ張ることで背中に負荷を逃がさずに大胸筋下部を鍛えることができます。
そして下部を鍛えるもうひとつ重要なポイントはプッシュと同時に肩を下に下げることです。これが守れていなかったらどんなに鍛えても下部は成長しないといっても過言ではありません。これが正しい下部のトレーニング、これが間違った下部のトレーニングとどう違うかわかりますか。
正解は肩を下に下げていないことです。下部のトレーニングではケーブルを引っ張ったりウエイトをプレスするのと同時に肩を下に下げるように肩甲骨を下に下げることが非常に大事です。これにより下部がより収縮して働きが強くなります。
一度ケーブルクロスオーバーで肩をすくませたままやってみてください。これをしながら大胸筋を触ってみると大胸筋下部にほとんど力が入っていないことがわかると思います。必ずウエイトを下に引っ張るのと同時に肩を下に下げて大胸筋を収縮させることを忘れないでください。肩がすくんでいる場合は肩関節の内転ではなくただ腕を下げているだけで大胸筋下部はほとんど活動しません。
最初のうちは出来ていてもきつくなってくると肩がすくんでしまいやすいので注意しましょう。
大胸筋を鍛えるときは中途半端なものではなく強い内転を入れること。そして、ケーブルを引っ張ったりプレスをするのと同時に肩を下に下げて大胸筋を収縮すること。この2つが非常に重要です。
内転と水平内転を使った上から引っ張るケーブルクロスオーバーは大胸筋下部の成長にとって理想的な種目です。ケーブルのフライはほぼ一貫して強い大胸筋の活性化を示しており、バーベルベンチプレスやダンベルのベンチプレスに匹敵するほどです。一般的なデクラインプレスよりも内転が強いため、フラットベンチプレスだと下部が成長しないという人にはぴったりです。
ポイントとしては水平内転です。真横に腕を閉じるのではなくケーブルの負荷の向きにそって引っ張ることも以上に重要です。
ケーブルクロスオーバーでは大胸筋ではなく腕が先に疲れるという相談を頂くことがあります。この場合最もよくある原因はヒジを伸展させていることです。スタートでは90度ヒジが曲がっており、フィニッシュではヒジが伸びきっている場合上腕三頭筋の力を使っている場合があります。
ケーブルクロスオーバーで大胸筋に負荷を集中させるポイントはヒジの角度を変えないことです。ヒジは軽く曲げる程度でそのまま伸ばさずヒジの角度を変えずに引っ張ります。強い内転を入れるためにもケーブルの高さは一番高い位置から下に引っ張りましょう。
トレーニング中のストレッチポジションのカットは筋肉の成長効果の大幅な低下に直結します。必ず腕を180度完全に開いて大胸筋を伸ばしましょう。
そして、特におすすめなのがバーディップスです。ブレットコントレラス博士が行った大胸筋種目の筋電図分析ではこのディップスが最も大胸筋下部を活性化することを示しています。ディップスにはベンチを使ったものもありますが、これは上腕三頭筋を特に強く活性化させます。大胸筋を狙うためにはバーを使ったディップスがおすすめです。これはほぼ真下にプレスを行うため非常に強い内転運動が入るので大胸筋下部がなかなか成長しないという人にはぴったりの種目です。
さらに加重ベルトをすれば上級者の人でも十分トレーニングができますし、ジムにマシンがあればアシストを使うことで初心者の人でもトレーニングが出来ます。アシストを使うのがちょっと恥ずかしいと思う人もいるかもしれませんが自分のレベルに合わせて負荷を調節するのは全く恥ではありません。むしろ周りの目を気にして無理して重い重量を扱っているほうがよっぽどかっこ悪いです。
この種目は非常に重要なポイントが多く、ケガのリスクも高いのでフォームを意識しながら行ってください。
ディップで重要なポイントのひとつ目は体をやや前傾させること。これをすることでケーブルクロスオーバーと同じように後ろから前にプッシュする運動が加えられることで大胸筋下部が強く活性化されます。
動作中ずっとこの前傾姿勢をキープすることが大事です。最初は前傾出来ていてもフィニッシュで体が垂直になってしまう人がかなり多いので最後まで気を抜かないでください。
そして、最も大事なのは肩、ディップスで最も危険なのは肩です。肩を守りながら大胸筋を鍛えるためには肩と手の距離を意識することが重要です。間違いなくケガをするディップスは体を下におろした時に手と肩の距離が遠いこと。
これが遠いと超高重量でフロントレイズをしてるのと同じ運動になるため肩に非常に強いストレスがかかります。大切なのは肩と手の距離を近くすることです。大体自分の前腕が地面と垂直に真っすぐ90度になるようにすると肩の違和感なくトレーニングができるはずです。
大胸筋に十分なストレッチを入れるためにも体は十分下に下げて最低でもヒジが90度になるまでは行いましょう。
ディップスは非常におすすめの種目ですがフォームが難しいのとケガのリスクも高いので最初はアシストマシンを使いながら行うのがおすすめです。
大胸筋下部は下部狙いの種目が必要な人もいればそうでない人もいます。大胸筋の下のラインができない人、そして乳首がほぼ真下を向いているひと。こういった場合大胸筋下部の成長が不十分で、中部とのバランスが悪くなっている可能性が高いです。そのままトレーニングしても大胸筋のバランスがどんどん悪くなるだけなので下部を狙った種目を取り入れましょう。
フラットベンチプレスプレスが自分の体重と同じくらいの重量が上がるけどラインがうっすらも出ないという人は大胸筋下部が成長しにくいタイプである可能性が高いです。他の人よりも多くの下部トレーニングが必要になります。
大胸筋下部はフラットなプレスやフライで十分という人は、下部を狙った強い内転種目は必要ありません。
ただし大胸筋のバランスが現在進行形でかなり悪く、下部を最短で成長させたい人は中部または大胸筋全体狙いのフラットベンチのプレスやフライよりもディップス、ハイプーリーのケーブルクロスオーバーを優先させるのがおすすめです。めちゃくちゃ悪いわけじゃないけどおそらく自分は下部が成長しづらいタイプという人は、そういった人は週に1~2回5set程度大胸筋下部を狙ったケーブルクロスオーバーやディップスを取り入れると下部の成長が大きく変わるはずです。
必ず下に引っ張るのと同時に肩を下げること。これが非常に重要です。
これができていないと仮に100setトレーニングしても大胸筋は成長しません。
下部が成長しにくいと思った人はぜひ試してみてください。