加齢とボディメイクについて科学的データは若い人と高齢者ではほとんど変わらないことが示されていますが、筋トレ法もほとんど変わらないわけではありません。40歳を超えた途端にケガをしたり筋肉がつきづらくなったということも珍しくはありません。
この記事では科学的なデータを基に40歳を超えると変わる生理学的要素とおすすめの筋トレ法について紹介します。この動画が少しでも参考になったと思っていただけたら是非高評価をお願いします。
年を取ると筋肉がつきづらくなる、落ちると考えている人は少なくないですが実は年齢と筋肉量の関係は大きくありません。2001年の研究では20~30歳の被験者と65~75歳の被験者では週に3日6か月間のトレーニングによって同じだけの筋肉量を得たことを示しており2020年のメタ分析では35件の研究を基に年齢と筋肉の成長効果を調べたところ60歳を過ぎると筋肉の成長は確かに落ちることを示していますが、その変動率は最高齢の88歳でも約10%しか説明できていません。
確かに2015年の筋肉の分解、サルコペニアについての研究では20歳からゆっくりと筋肉の減少が始まっていることがわかりましたが、別のメタ分析に「サルコペニアの主な原因には、座りっぱなしのライフスタイルと栄養失調が含まれる」と示されている通り筋肉の分解には単純に加齢というよりも運動しなくなったり食生活が乱れてタンパク質が不足することが主な要因であるようです。
そのため、高齢者の人でも筋トレをしてタンパク質さえ十分とっていれば20代、30代の人とほとんど同じ量の筋肉をつけることができます。
ただし、筋肉をつける機能はほとんど同じだからといって全てが同じわけではありません。ここからは20~30代の成人と40歳以降の違いについて科学的なデータを基に紹介し、それぞれの鍛え方の違いについて紹介します。
2011年の研究ではほぼ1年、48週間という非常に長期間にわたり、70人もの被験者を対象に実験を行いました。被験者は20~35歳の若い成人グループ31人と60~75歳の高齢成人グループ39人に分けられました。
まず第一フェーズとして16週間被験者は週3回、のトレーニングを実施しました。トレーニングはレッグエクステンション、レッグプレス、スクワットの3種目を3setずつ行い1週間合計は27setでした。
第一フェーズ終了の時点で両グループ外側広筋が大幅に成長していました。
次は第二フェーズとして32週間の期間が与えられました。被験者は3つのグループに分けられ、ディトレーニングループとして32週間全く筋トレをしないグループと1/3グループとして27の1/3、毎週9setのトレーニングを行うグループ、1/9グループとして毎週3setのトレーニングを行いました。
結果としてほとんどのグループは年齢に関係なく筋肉と筋力を失いましたが、高齢者のほうが多くの筋肉を失っていることがわかりました。
このように高齢者は筋トレを休んだ時に筋肉が落ちるスピードが若い人よりも速くなる可能性が高いです。
ウエイトトレーニングのケガについて2010年の調査では1990年から2007年の17年間でアメリカだけで97万件もの事故が報告されています。ケガの件数が最も多かったのは13~24歳までの若者でしたがケガの発生率が最も高いのは45歳以上でした。その中でも55歳以上は特にケガのリスクが高いことが報告されています。
ということは45歳以上は若い人よりも危険な鍛え方をしているのか、そうではないと思います。2008年の研究では加齢は回復プロセスに影響を与えて回復能力を低下させることが示されているように関節や筋肉の回復に長い時間がかかる可能性があります。
そのため、40歳以降の人がトレーニングするときはこのケガのリスクを特に意識しながら鍛えるのがおすすめです。
2015年の研究では高齢者は健康のために多くのたんぱく質が必要になることを示しています。60歳を超えると体重1kgあたり1.0~1.3gのたんぱく質が必要であることを示していますが、これは健康のためであり筋肉の成長にとっては不明です。残念ながら高齢者かつ筋肉の成長を目的にしている人にとっての最適な量というのは不明ですが、証拠を集めると筋肉の成長にとっても若い人よりも多くのたんぱく質が必要になる可能性が高いです。
一般的に成人は体重1kgあたり1.6gで筋肉の成長が最大化されることが強力な証拠によって裏付けられていますが、高齢者はそれよりも多くのたんぱく質が必要になる可能性があります。おすすめとしては体重1kgあたり2.0gのたんぱく質摂取です。
ここからは実際の40歳を超えた人におすすめの筋トレ法について紹介します。
若い成人は1週間で各筋肉3set程度やれば十分筋肉量を維持できますが、高齢者の人の場合それでは少し不十分です。科学的データを基にブレットコントレラス博士は高齢者は筋肉を維持するために少し多くのボリュームが必要になり、各筋肉4~5日に一回は各筋肉3setのトレーニングが必要になると答えています。
加齢とともに筋肉の成長や維持のために少し多くのセット数や頻度が必要になる可能性が高いです。基本的にはあえて休んでいる場合でなければ最低でも1週間に2回、各筋肉5setトレーニングするようにしましょう。
そして最も重要なケガのリスク。安全に筋トレをするために重要なポイントは重すぎない重量で筋肉を鍛えることです。
2023/3月に公開された高齢者を対象にした最新の研究では101人の高齢女性を対象にした研究では12週間の全身トレーニングを週3回、8~12repグループと10~15repグループで分けたところ8~12repのグループよりも10~15repグループのほうが大幅に筋肉が成長していることを発見しました。(2.5vs6.)
高回数でトレーニングをすることは関節にかかる負担を小さくしながら筋肉を鍛える優れた方法です。割合としてはトレーニングの半分以上は10rep以上のトレーニングをするのがおすすめです。特にストレッチがかかる種目は関節とは逆向きに力がかかるため、高重量だと関節にかなり強い負担がかかります。特にヒジ関節、膝関節は最もケガしやすい部位なのでプリチャーカールやレッグカールでは比較的軽めで鍛えるのがおすすめです。
さらにいくつかの証拠を見ると高頻度の全身トレーニングは分割法よりも筋肉の損傷が小さく回復能力が高いことが示されています。常識的には逆のようなイメージを持っていると思いますが、高頻度で各筋肉をちょっとずつ鍛えたほうが筋肉や関節にとって安全に鍛えられます。
筋肥大、そして回復のためにも高頻度の全身トレーニングで鍛えましょう。
そして、大きなケガを避けるためには追い込み過ぎないこと。近年の科学的なデータでは筋トレではあえて余力を残す鍛え方が安全で筋肉の成長にとって効果的だと示されており、特に高重量トレーニングでは追い込みは必要なく、メリットがほとんどないことが示されています。特に追い込みが危険な理由は限界ギリギリの時フォームが崩れて危険な状態になることです。20歳の時は結構ギリギリまで攻めても大丈夫だったかもしれませんが、そのまま40歳、50歳となって同じ鍛え方をすると前は大丈夫だったやり方でも簡単にケガをしてしまうことがあります。
トレーニングでは潰れる1~3rep手前でリフトをやめるのがおすすめです。
休憩時間についてはどうでしょうか。回復に時間がかかるんだから年齢が高い人のほうがたくさん休憩する必要があるんじゃないの。実はそうでもありません。
20~30歳の若い女性と60~80歳を対象にした2008年の研究では大腿四頭筋を鍛える特殊なマシンでトレーニングを行わせたところ高齢者グループは力が回復するのにセット間の休憩時間30秒で充分であったのに若い女性グループは60秒の休憩が必要であったことを示しており、
2010年の別の研究でも17人の若い男性(25)と20人の高齢男性(66)では高齢男性のほうが回復が早かったことを示しています。
その理由として重量と筋繊維の性質です。高齢グループは共通して若いグループよりも力が弱く軽い重量を扱っている傾向にありました。そして、加齢に伴い遅筋線維の割合割合が高くなることで疲労耐性が強くなった可能性があります。
そのため、ドロップセット法やレストポーズ法のようなインターバルを短くして鍛えるのも非常におすすめです。スクワットやベンチプレスはしっかり休んでほしいですが、マシンやアイソレーション種目は低重量高回数で休憩を1分から1分半にして鍛えるのもいいと思います。
いかがだったでしょうか。筋肉の成長は科学的なデータを見ると50才まではほとんど変わらず、60歳を超えたらやや筋肉がつきづらくなりますがそれはわずかです。ケガのリスクが高いことや必要になるボリュームやタンパク質が少し増えることだけ注意してもらえれば60歳を超えても厚みのある大胸筋や太い腕を作ることは間違いなく可能です。