結局筋トレにオフって必要なの?
筋トレは毎日やるとオーバーワークだし、ディロード期といって1週間程度休むことも筋肉の成長にとって重要と聞いたことがある人も少なくないと思いますが、しかし実際筋トレにオフは必要なのでしょうか。これについて最近素晴らしいデータが得られました。この記事では筋トレを休むオフの必要性や気を付けてほしいオーバーワークのサイン、オフの取り入れ方など、回復と筋肥大効果について科学的なデータを基に解説します。
オフには短期的なものと長期的なものがあります。短期的なものはオフ日、例えば日曜日オフとか火曜日オフというように1日単位の休憩。長期的なものはディロード期のように1週間以上のオフのことを指します。
短期的なものの理論はよく聞くと思います。毎日筋トレすると筋肉のダメージが蓄積された状態なのでオフの日を作ることで1日筋肉の回復に務められるので次からの筋トレを万全な状態で挑むことができます。
それでは長期的なオフはどうでしょうか。トレーニングの長期的なオフを作ることは疲労を軽減させる以外に有益である証拠がいくつかあります。
2013年の研究では毎週トレーニングを継続的に行うと筋肉の成長を促す反応が鈍感になる可能性があり、休憩をとることでこの鈍化したアナボリック反応がリセットされる可能性があるコトを示しています。つまり、月に1回、2か月に一回でもいいので時々筋トレを休むことは長期的には筋肉の成長が増える可能性があります。
ただし、これは単なる分子データでありこの理論を裏付ける強い証拠ではありません。
2023/6に公開された最新のデータでは長期的なオフについて筋肉量と筋力の増加を直接測定したデータが得られました。平均3.5年のトレーニング経験を持つ被験者39人が休憩グループと通常グループに割り当てられます。両方のグループは月曜と木曜に上半身、火曜と金曜に脚を鍛える上下分割を週4回実行しました。
上下分割ではありますが測定した筋肉量と筋力はすべて下半身で行われました。下半身のトレーニングはスミスマシンスクワット、レッグエクステンション、レッグプレスマシンを使用したカーフレイズ、座った状態のカーフレイズマシンの4種目を5set、8~12rep、潰れるまで実行しました。
通常グループは9週間トレーニングを継続的に行い、休憩グループは4週間連続で鍛えて、1週間休んで4週間トレーニングしました。筋力はスミスマシンスクワットとレッグエクステンションによって評価され筋肉量は大腿直筋と外側広筋の下肢長30%、50%、70%の3か所と腓腹筋の内側と外側、ヒラメ筋3つの25%で測定されました。
合計9つの部位の筋肥大効果を測定したところ休憩なしグループのほうがわずかに優れているとことを示す部位が多い傾向にありましたが、両グループはほぼ同様に筋肉が成長していることを発見し、筋力については通常グループのほうがわずかに優れていることを発見し、研究者はトレーニングサイクルに休憩をはさむことは筋肉や筋力の成長を促進させない、もしくはわずかに減少させることを結論付けました。
短期的な回復についてはどうでしょうか。シンガポールとポルトガルで行われた研究に示されている通り筋肉の回復には48時間以上待つ必要はなく、連続して同じ部位を鍛えても筋肉は同様に成長することを示しています。
そして回復についてだけではなく検索の範囲を頻度に広げるとこれを裏付ける膨大なデータが存在します。
例えばブラジルで行われた研究ではベンチプレスの1RMが約100kgの筋トレ経験者を対象に月曜から金曜まで週5回のブロスプリットトレーニングと連続して行うフルボディトレーニングで筋肥大効果を測定したところ筋肥大効果については全て高頻度トレーニングのほうが優れていることを示しています。この筋肥大効果の差については概要欄にある解説した別の動画を見てください。
これらの証拠を並べると休憩についての理論は短期的、長期的関わらず説得力のある証拠がないことがわかります。筋トレを休むオフを作るのは百害あって一利なしというレベルではありませんが、メリットはあまりなさそうです。それでは筋トレのオフは何の役にも立たないものなのか。実はそうでもありません。
長期的なオフ、ディロードについての研究ではほぼ筋トレ効果は同じでやや休憩なしのグループのほうが優れていました。ただしこのトレーニングスケジュールについてカンの良い人なら違和感を感じると思います。それは全体的なトレーニングボリュームです。
休憩グループは筋トレを1週間休んでいたため通常グループと違ってこの部分に空白が空いており、トレーニングボリュームがごっそり抜けていることになります。この研究では休憩グループは通常グループよりも毎日多くのトレーニングをして研究期間の全体的なトレーニングボリュームを同じにしようとしていたのか。実はしていません。1週間の休憩中のボリュームは抜け落ちており通常グループは休憩グループよりも11%多くのセットをこなしておりその具体的な数字は40setでした。
そして別の研究では被験者を24週間連続で鍛えるグループと6週間鍛えて3週間休むサイクルを繰り返す被験者で比較をした結果、大胸筋、そして上腕三頭筋の成長は両グループでほとんど同じでしたが3週間の休憩をはさむグループのトレーニング量は25%少ないことがわかっています。実際、筋トレを継続させるグループは筋肉の増加率が徐々に停滞していってることがわかりますが、休憩後の筋肉の増加率は大きく上がっていることがわかるため、最初に紹介したアナボリック反応をリセットして筋肉の成長を促進させている可能性もあります。
そのため、筋トレサイクルに長期的な休憩を挟むことは少ないトレーニング量で多くの筋肉を獲得できる可能性があり、長期的にみると休憩を挟まない人よりもおおくの筋肉量を獲得できる可能性は低くありません。
筋肉の成長にとっては休憩を挟んでも挟まなくてもほとんど変わらないことを示していますが、長期的な休憩をはさんだグループはより少ないセット数で同様の筋肉の成長を達成していることに注目する必要があります。
ただしこれらの科学的なデータには限界があります。これらの研究は確かに少ないセット数で同様の筋肉の成長を示していますが、ディロードのように1週間休憩があったほうが筋肉が成長することを裏付けるデータではありません。確かに推測としては休憩をしたほうが筋肉は成長する可能性がありますが実際それをしたほうが筋肉が成長したと示すデータは不足しています。
そして、24週間で3週間の休憩期間を設けた研究では休憩後に筋肉の成長率が大幅に増えていることがわかりますが、その前の休憩期間中に筋肉量が落ちていることがわかります。筋トレを数週間しないとタンパク質摂取量が十分である場合筋肉が落ちる可能性は低いですが、筋肉組織中の水分が抜けて小さくなる場合があります。
つまり休憩後の成長率の増加は筋トレの効果に加えて筋肉組織に水分がもう一度集まることで急激に大きくなったように見えただけということも考えられ、実際に筋肉の成長に追加効果があるかは不明です。
科学的なデータを見ると短期的長期的に関わらずオフによって筋肉が回復する、オフがないと回復できないから成長しない、逆効果になるという理論は正しくない可能性が非常に高いです。それだけはかなり自信を持って言えます。少なくとも筋トレを毎日したせいで筋肥大しないという可能性はゼロに近いです。
オーバートレーニングについてのメタ分析でも筋トレ後に疲労が蓄積されることを裏付ける証拠はなく、仮に筋肉が損傷した状態でトレーニングをしても何の問題もないことを示しています。
しかし、回復の線はないとしても少ないセット数で同じだけの筋肥大効果を達成したことは無視できないため、ディロードのような期間が無駄だとは到底思えません。多くのトレーニーにとって長期的なオフを時々取り入れることは効率的に筋肉を成長させるために必要かもしれません。
パーカーフィットネスの考えとしては短期的、そして長期的な休憩のメリットはパフォーマンスの影響だと考えています。パフォーマンスへの影響は心理的なものから肉体的なものまで多くあります。研究では24週間筋トレし続けるグループの筋肥大効果は研究期間の後半で低くなっていることがわかりますが、アナボリック反応の停滞だけではなく精神的なストレスから筋トレモチベーションの低下によってパフォーマンスが低下したことも考えられます。研究期間は24週間、半年近くあるのでモチベーションや精神的な疲労は不思議なことではありません。
menno henselmans博士はメタ分析を基に回復について最高の判断基準はパフォーマンスであると話しています。例えばベンチプレスの重量が何週間も伸びていないとか、徐々に下がっている場合、それはオーバートレーニングかもしれません。関節や精神的な疲労によってパフォーマンスが下がっている可能性があるため、回復のために1週間程度のオフを取り入れたほうがいいでしょう。
しかし、定期的に休憩期間を取り入れないといけないわけではなく長期的な休憩が嫌いな人もいます。紹介した最新の研究では被験者は1週間の休息期間でリフレッシュしたというよりも体のだるさを感じたと報告されているためパフォーマンスが下がっているわけではなく、かつ休憩したくない人はしないほうがいいと思います。
1週間に1日程度の短期的な休憩については科学的なデータを見ると筋肉の成長や回復についてメリットはかなり少ないと思いますが、1週間毎日筋トレするのは結構しんどい場合もあり、1週間に1~2日程度ないと1か月も継続して筋トレできないという人も多いと思うので筋トレを長く続けていくためにもそういった人にとって短期的な休憩は必要だと考えています。