大胸筋は外見的にも最も重要な筋肉のひとつであり、筋肉質な体をつくるためには避けては通れません。しかし、一生懸命トレーニングしてもこの筋肉が成長しない人もいれば、数か月で大胸筋の成長を感じることができる人もいます。
実は大胸筋トレーニングは筋肉の特性によって重要なポイントがいくつもあり、これを理解して鍛えないと全く意味のないトレーニング、時間はかかるけど全然効果のないトレーニングにもなってしまいます。この記事では科学的な根拠を基に大胸筋の鍛え方、そして最強種目、筋トレメニューについて紹介します。
大胸筋は2つから3つに分けられることが多いです。ひとつはclavicure head。これは大胸筋上部を指し、脇の下の辺りから鎖骨に伸びている筋繊維です。そしてもうひとつはsternal head。これは脇の下から胸骨に向かって広がっている部位です。ただ、この筋繊維は真横に伸びている部位と下方向に伸びている部位があるため、一般的には横方向に伸びている筋繊維を中部、下方向に伸びている筋繊維を下部ともいいます。
解剖学的には最も重要なのは水平内転、上部中部下部共にこの水平に腕を閉じる運動で大胸筋は最も強く働きます。そのため、大胸筋のどんなトレーニングでも腕を閉じるような運動は必須です。
加えて筋繊維の向きから上部は屈曲という腕を上にあげる運動、下部は下に下げる内転にも関わっているため上部を狙うときは水平内転に加えて屈曲を加えるのが効果的であり、下部は水平内転と内転を加えるのがおすすめです。
大胸筋に関する質問で、内側と外側について鍛え方を聞かれることがあります。大胸筋には内側と外側があってよくある鍛え方としては内側は収縮させると強く活性化させるといわれていることが非常に多いです。
まず最初に言うとそういった内側は収縮という情報を絶対に真に受けないでください。これらには信頼性の高い科学的なデータはほとんど存在しません。フィットネスの研究者であるmenno henselmans博士が話すようにいくつかの研究で内側と外側で筋肥大効果に差が出た研究は存在しています。
しかし、その研究のほとんどが大腿四頭筋やハムストリングスなどの下半身で筋繊維の長い部位が対象であり、上半身ではほとんどこの結果はみられていません。さらにもっと重要なのは、収縮を意識したら内側の筋肉量が増えたなど可動域によって差が出たというデータもほとんどありません。内側と外側で差が出た研究はレッグエクステンションとスミスマシンスクワットだったり、10repと20repなど回数によって差が出たりなど非常にバラバラであり研究者たち自身も原因がまだわかっていません。
なぜ収縮させると内側というかは収縮したとき大胸筋が寄って内側が鍛えられてるかのように見えること、そしてパンプが強くなって大きく見えるだけです。一般的な内側の鍛え方は単純に筋肉の成長にも良くないので本当に真似しないほうが良いです。
ほとんどのトレーニングで内側と外側については大きな差はない可能性が高いです。内側が成長したと感じるときはほぼ全体の大胸筋のサイズが増加している可能性が高いため、内側を狙うよりも大胸筋全体を狙ったほうが結果的に内側も成長しやすくなります。
大胸筋の内側を鍛えることができる可能性はゼロではありませんが、科学的なデータを見ると内側は収縮と言えるだけのデータは不足していることは断言できます。さらに大胸筋の解剖図を見ても大胸筋はわきの下あたりに密集していますが、内側にいくにつれて広がっているため密度もどんどん低くなります。
外側よりも内側のほうが成長しにくいというのは自然であり、内側のみが成長している人を見たことがないのもこれが理由です。おそらくこの部分のサイズは全体的な大胸筋のサイズと肩幅の広さなど遺伝的なものにほとんど依存する可能性が高いため内側が欲しい人は全体を成長させる意識をしたほうがいいでしょう。
2022年の4月に公開された研究では筋肉量と筋力において非常に強い関係性がみられ、トレーニングと同時に筋力を伸ばす意識をすると筋肉がより成長しやすい可能性があることを発見しました。
そのため大胸筋のトレーニング種目も重量を増やす意識をすると成長スピードが上昇します。特に科学的なデータを見るとバーベルベンチプレスの強さと大胸筋のサイズには非常に強い関係性があるようです。
最大重量と大胸筋のサイズについて調べた研究では18人の被験者のスミスマシンベンチプレスの筋力に相関係数0.86という強い関係性がみられました。これは1.0が最大の値であることを考えると非常に高い数値です。
加えてバーベルベンチプレスをトレーニングメニューにした研究では24週間の研究期間で3週間ごとにベンチプレスの最大回数と大胸筋のサイズを測定したところベンチプレスの最大回数が増加すると同時に大胸筋の厚みが増加する傾向があるコトがわかりました。
そのため、自分のバーベルベンチプレス、腕立て伏せなどでもOKですが、大胸筋種目で重いウエイトに挑戦したりより多い回数に挑戦すると大胸筋の成長が促進されます。
大胸筋のトレーニングというと多くがベンチプレスや腕立て伏せなどのプレストレーニングを想像します。しかし、プレスに加えてフライトレーニングを追加すると大胸筋がより成長しやすくなります。筋肉の成長とバリエーションについてのレビューペーパーではトレーニングではある程度のバリエーションで鍛えると筋肉の成長が促進されることを示しているため、1種目だけではなく2~3種目で各筋肉のトレーニングメニューを組むことがおすすめです。
フライトレーニングの時はマインドマッスルコネクションを使って筋肉を意識しながら鍛えるのがおすすめです。しっかりとストレッチと収縮を感じて広い可動域でトレーニングしましょう。
良くあるミスとしてはフライで肘を曲げながら行っている人が多いですが、そのやり方は高重量は扱えるかもしれませんが筋肉の成長にとってあまり効果的ではありません。
これは肘を曲げると収縮が弱くなり可動域が狭くなるのとフライではなくプレス運動に非常に近くなることから大胸筋を隔離して鍛えることができないためであり、フィットネスの世界的な権威であるブラッドシェーンフェルド博士は肘を曲げてフライをやることを代表的なミスとして挙げています。
肘は軽く曲げる程度で出来るだけ伸ばしながらフライを行いましょう。
大胸筋をバランスよく成長させるために最も重要なのは全体を狙うことです。当たり前のことですが多くのトレーニーがミスを犯しています。大胸筋のトレーニングガイドではよく上部狙いの種目、中部狙いの種目、下部狙いの種目の3つで筋トレメニューを構成しようとします。
しかしこれは上部、下部を狙うことのデメリットを理解していません。menno henselmans博士は「インクラインプレスの時は上部を鍛えているというよりも下部を鍛えていないといういい方のほうが正しく、クライアントには大胸筋トレーニングのほとんどは水平タイプのトレーニングを指示している」と話すように多くの人にとって大胸筋を全体的に厚くするためには上部中部下部狙いの3種目をやるというよりも全体を狙う種目をたくさんやったほうが効率的な場合があります。
実際、ベンチ台の角度と大胸筋の活動について調べた研究ではベンチ角度30度が上部のピークですが中部と下部は大幅に筋活動が低下していることがわかります。つまり、上部狙いの種目は上部の活動を少し上昇させる代わりに下部と中部の活動を大幅に低下させていることになります。
大胸筋トレーニング種目の中ではフラットなバーベルベンチプレスやフラットなフライなどの屈曲や内転など腕を上下に動かさず真横に閉じる運動のみを使う種目が大胸筋全体の発達にとって効果的である可能性が高いことを示しています。
もちろんこれは大胸筋の成長度合いや個人差にもよるため上部がかなり遅れているという人や下部がかなり遅れているという人は別ですが基本的には上部、中部、下部狙いの3種目でバランスよく鍛えるというよりも大胸筋は全体をバランスよく活性化させる種目をたくさんやるのがおすすめです。
特に大胸筋下部は中部と筋肉の成長が類似している可能性が高く、高い位置から引っ張るケーブルクロスオーバーなどの下部狙いは必要なく、水平内転の全体を鍛える種目だけで十分である人がかなりの割合でいます。
次に紹介する最強種目も全体をバランスよく鍛えることを目標にしています。
フラットバーベルベンチプレスは先ほど紹介したように最大重量や最大回数が大胸筋のサイズに深く影響している可能性が非常に高いです。この種目ををレーニングメニューの1番最初にやる日を作って何キロがどれくらいの回数上がったかを記録し、次回はそれを超えるように努力することで大胸筋のサイズがより増えやすくなります。
さらにこの種目は大胸筋全体を強く活性化させます。
2013年の研究ではトレーニング経験のない男性にフラットバーベルベンチプレスを肩幅の2倍の広さで1RMの75%、10回3setを週3回合計24週間実行させました。24週間後、被験者の大胸筋のサイズを上部中部下部の3つに分類して調査したところ、上部は+36.3%,中部は+37.3%,下部は+40%の筋肥大効果が確認されました。
そして2019年の研究ではトレーニング経験のある男女で8週間、週に2回、1RMの85%を5回4setのフラットバーベルベンチプレスを行わせました。研修者の肋骨の空間で大胸筋を上部と中部、下部の3つに分けてサイズを測定したところ、上部は+7.44%、中部は+10.06%、下部は+7.45%の成長が確認されました。
このようにフラットバーベルベンチプレスは大胸筋全体を鍛える可能性が高い種目でもあります。多少グリップ幅によって差は出る可能性はありますが肩幅以上の広さで極端にワイドにしすぎていなければ大胸筋全体を高いレベルで活性化させます。
バーベルベンチプレスを紹介しましたが、科学的なデータを見るとダンベルベンチプレスや腕立て伏せもほとんどバーベルベンチプレスと同じ大胸筋の成長を示しているため家でトレーニングしている人や個人的に好きという人は腕立て伏せやダンベルベンチプレスでもOKです。腕立て伏せのフォームなど詳しいことについてはこちらの動画を見てください。
ただし、ダンベルベンチプレスをしてる人に特に多いのがしっかりダンベルを下まで下げていないことです。20kg、30kgのダンベルでプレスをしてる人のフォームを見るとほとんどの人が肘が90度になる位置でストップしています。ストレッチと広い可動域は筋肉の成長にとって重要であるというかなり説得力のある証拠があるため必ず大胸筋のストレッチを感じるくらい十分下まで下げましょう。スポーツサイエンティストのmike israetel博士も言う通り、ハーフダンベルプレスは筋肉ではなくメンタルだけを鍛えてるようなものです。
ベイジアンフライは大胸筋の肩関節の特性を利用したフライトレーニングです。先ほど鍛え方について大胸筋はプレスに加えてフライをすると大胸筋の成長が促進されると紹介しましたが一般的なフライには問題点があります。
大胸筋の意外と知られてない解剖学的な運動として肩関節の内旋があります。肩の運動と大胸筋の筋活動についての筋電図分析では肩を内旋させることで大胸筋の活動が増えたことを示しているため、プレストレーニングでこの運動を加えることで大胸筋の活動が大きく増える可能性があります。
2010年の研究では一般的な腕立て伏せと特殊なグリップを使用するグループで比較しました。このグリップは体を下げた時に手のひらを向かい合わせにしてフィニッシュではベンチプレスのように親指同士を向かい合わせにします。
つまり、腕立て伏せのプッシュ動作と同時に肩が内側に回転する運動も追加されます。結果として手幅が狭い場合以外の広さではこの肩の回転を使ったほうが大胸筋の活動が高いことがわかりました。
しかし、一般的なフライはダンベルやケーブルを握るときにニュートラルグリップで持ち、フィニッシュで手のひらが向かい合わせになります。これは肩関節の内旋運動がなく大胸筋の収縮感が少し弱くなる可能性があることを意味します。
ベイジアンフライはケーブルのフライですがグリップを使わずにケーブルのヘッドを握ります。これをすることでベンチプレスのように手のひらが下に向いて肩関節の内旋が強くなります。水平内転のみに集中したいため、ケーブルの位置は自分の肩と同じにして屈曲や内転を使わないようにしましょう。
さらに腕をクロスさせることによって可動域が増えます。ケーブルの高さは自分の肩と同じ高さに設定して水平内転にフォーカスした運動にします。そして肘は出来るだけ伸ばして軽い重量でもいいのでストレッチと収縮を感じましょう。
大胸筋の全体的な発達においては上部を狙った種目が必要な場合があります。バーベルベンチプレスの筋肥大効果についての研究をもう一度見てみましょう。2013年の研究ではフラットバーベルベンチプレスによって上部は+36.3%,中部は+37.3%,下部は+40%の筋肥大効果が確認されました。3
確かに筋肥大の増加率を見るとバランスよく筋肉が成長しているように見えます。しかし、増加率ではなく実際に増加した量を見てみましょう。
研究では大胸筋の上部と中部、下部はこのような筋肉量になりました。ココから実際増えた筋肉量を見てみましょう。そうすると中部は+10.3、下部は+9.9なのに対し、上部は+5.5で上部や下部の半分程度しか筋肉量が増えていないことがわかります。そして研究前と後の大胸筋のサイズを見ても中部や下部よりもはるかに小さいことがわかります。
2019年の研究でも筋肥大効果についてパーセンテージで見るとこのようになりますが、実際の増えた筋肉量についてみてみると上部は中部や下部の半分程度しかなく、研究前と後のサイズも上部はかなり小さいことがわかります。
最初の研究は筋トレ未経験者、次の研究は筋トレ経験者が対象です。つまり、多くの人にとって大胸筋は元々の上部のサイズが中部や下部よりもはるかに小さいため、大胸筋の上部が遅れる可能性が非常に高いことがわかります。ほとんどのトレーニーにとって大胸筋は上部が遅れやすいのはこれが理由です。
そのため大胸筋トレーニングはやや上部を優先して鍛えたほうがバランスのいい大胸筋になります。
ただし、ベンチ角度が急すぎると中部と下部の活動が大幅に下がり、全体的な活動が弱くなる可能性があります。さらに角度をつけてもショルダープレスのようになり、上部よりも肩の筋活動の増加が大きくなる可能性が高いため、インクラインプレスのベンチ角度は15~30度、おすすめとしてはベンチ角度を1段階上げるだけにして緩やかな角度にするのがおすすめです。
この種目もダンベルかバーベルかは大きな問題ではないので皆さんの好みでOKです。
スポーツサイエンティストのmike israetel博士は大胸筋のトレーニングメニューとしてフラットプレス、そしてフライ、最後にインクラインプレスで構築することを推奨しています。これは大胸筋全体を狙いながら上部を優先的に発達させるためには非常に理にかなっています。
パーカーフィットネスとしてはフラットプレスはバーベルベンチプレス、インクラインプレスはダンベルのプレスでやるとバリエーションが出るのでおすすめです。
筋トレ頻度については出来るだけ高頻度、科学的なデータから高頻度のほうが筋肉が成長しやすいということが分かっているため、胸の日などの1日で集中的に鍛えるトレーニングは絶対におすすめしません。これはかなり大量の研究で筋肉の成長にとって最悪であることがわかっています。
最低でも週に3回はトレーニングすることを推奨します。
セット数としてはブラッドシェーンフェルド博士のレビューでは筋トレ経験者は10set以上は必要であることが示されているため、筋トレ経験が半年ある人なら最低でも15setは欲しいところです。
例えば月曜日、フラットバーベルベンチプレス、火曜日、ベイジアンフライ、水曜日、インクラインダンベルプレスという風に3種目を連続して行い、各種目3setを週5回やれば大胸筋は15setとなります。特に最大限筋肉を成長させたい人は5setを週に5回以上で25set程確保するのがおすすめです。
必ずストレッチと広い可動域が重要です。当たり前ですがインクラインダンベルプレスでしっかりダンベルを下まで下げていなければ筋肥大効果は半減するといっても過言ではありません。フライでも重い重量を扱うためにあえてストレッチ部分をなくしてトレーニングする人がいますが、ストレッチを殺せば間違いなく筋肥大も殺されます。
しっかり広い可動域でやればほとんどの人にとってプレスでも10~20kgくらいのダンベルで十分、フライに関してはケーブルだと片方5kg程度の重量で十分トレーニングになります。
そして最大重量を伸ばすことを忘れないでください。フラットバーベルベンチプレスがおすすめですが、この種目をできるだけ多くの回数、重い重量で行うように意識するだけで大胸筋の成長速度は倍増します。
この動画の最強種目と鍛え方の3つのポイントを忘れずトレーニングしていけば間違いなく大胸筋は劇的に変わります。