懸垂は最も原始的で優れた広背筋ビルダーです。この種目に必要なのはぶら下がる環境と自分の体だけ。
トレーニングではこの種目をスキップしてバーベルやマシンを好む人が多いですが、広い背中を作るうえでこの種目は最強といっても過言ではありません。
ただし、単純に懸垂をやるだけでは100点のトレーニングではありません。
今年の4月に公開された研究では筋肉量と筋力には相関係数0.95という非常に強い関係性がみられ懸垂をやるだけではなく少しでも多く回数や重量をこなすようにすると背中が劇的に成長します。
この記事では背中の広がりを作るための懸垂筋力アップメニューについて紹介します。
懸垂は肩関節の内転という運動を主に使用して広背筋を活性化させる種目です。広背筋は肩関節の内転で強く働くためトレーニングでこの運動を入れるとこの筋肉が働きます。
背中のトレーニングにはロウという運動もありますがこの種目は可動域とストレッチの問題があるため広背筋を強く働かせることができません。スポーツサイエンティストのmike israetel博士は広背筋の性質から背中の広がりを作るためには上から下に引っ張る種目であるラットプルダウンや懸垂が必要であると話しています。
しかし、2013年のEMG研究によると広背筋の筋活動についてはラットプルダウンも懸垂も有意な差がありませんでしたが懸垂はラットプルダウンよりも脊柱起立筋や上腕二頭筋の活動が有意に高いことが示されています。
加えてアメリカの運動評議会ACEの筋電図分析ではプルアップ、チンアップはラットプルダウンと比較しても広背筋に最も強い刺激を与えるようです。
この種目は自重でのトレーニングですが加重ベルトというアイテムがあればダンベルやウエイトプレートをひっかけることで自分の体重にプラスアルファのウエイトを追加することができますし、まだ自重が無理という人はアシストマシンを使うことで低負荷の懸垂ができます。
グリップ幅と広背筋の活動についてはほとんどの研究でワイドもナローも変わらなかったことを示しているため、手幅を広げても広背筋にメリットはなく、むしろ可動域やストレッチが減るため極端なワイドにはしないことを推奨します。
大体、自分の肩幅から少し広いくらいがおすすめです。
最初は広背筋を伸ばしてストレッチさせ、フィニッシュでは自分の大胸筋上部をグリップとくっつけるイメージで引っ張り、体がやや斜めになっていることが重要です。しっかりストレッチをかけていなかったり、少ししか体を持ち上げていない人もかなり多いので注意してください。
そして、きつくなってくると最後に肩がすくんでしまうこともあります。これをすると広背筋が伸びるのでフィニッシュでの収縮がかなり弱くなります。自分の体を持ち上げるのと同時に肩を下に下げましょう。
筋トレには収穫逓減の原則があるため筋トレの効果は徐々に落ちていきます。しかし、プログレッシブオーバーロード、つまり自分の力を伸ばすことも同時に意識すると筋トレ効果の低下を防止できることを多くの研究データは示しているため、伸ばす意識がないとすぐに筋肉の成長は停滞しますが懸垂をやるのと同時に伸ばす意識をすると広背筋が成長し続け、爆発的にデカくなります。
懸垂を伸ばすためのパーカーフィットネスが推奨する超おすすめメニューはトーマスデローム博士によって生み出されたデロームプログラムです。聞いたことがない人もいるかもしれませんがこのトレーニングは実はかなり長い歴史があります。これが生まれたのは1940年代の第二次世界大戦後、アメリカ兵のリハビリテーションとして開発され、80年後の今に至るまで多くの研究が行われました。
パワーリフティングコーチのダンジョン氏によるとDelormeプログラムは300件のケースで筋肥大と筋力アップの素晴らしい効果を発見したようです。さらに最新の研究でもこのプログラムが有利な可能性を示す研究がいくつか出ています。
ちなみにパーカーフィットネス自身も筋トレ初心者時代にこの方法で2か月ほどで最大重量を30kg伸ばした方法でもあります。
簡単に言うとこれは3set構成、ウォームアップセットを2setやって本番1setというものです。
1 | 目標重量の50% |
2 | 目標重量の75% |
3 | 目標重量の100% |
厳密にいうとDerolmeプログラムは10repが限界の重量で目標重量の50%を10rep,75%を10repというものですが回数の魔法のようなものはないため10repにこだわる必要は特にないと思います。
このプログラムのメリットは重い重量を扱いやすいということです。
科学的な回数と筋肥大,筋力アップについての研究ではボリュームが同じ状況であるなら筋肥大効果は高回数も低回数も同じであるが筋力アップについては低回数高重量のほうが有意に効果が高いことが示されています。
例えばこの2014年にブラッドシェーンフェルド博士が行った研究では10repの高回数と3repの低回数では筋肥大効果はほとんど同じですが、明らかに低回数グループのほうが有意に筋力アップ効果が高いことがわかります。
これは高重量ほど多くのモーターユニットを動員できるためです。
例えば代表的な筋力アッププログラムである5×5では5set同じ重量を扱います。
5×5をやるとき100kgが5~6回しか上がらない人が100kgでこのメニューを組めるでしょうか。まずこれは不可能です。1set目は5rep上がっても2~3set目にはもう5回上がらなくなります。
つまり、5set目でも5rep何とか上がる重量を選ぶ必要があるため、自重60kgの5repがぎりぎりの人なら40~50kgくらいの重量で組む必要があります。Delormeプログラムの場合はキツイセットが1setしかないため5set目には3repほどで潰れそうなどの心配がなく自分の力ぎりぎりの重量を扱うことができ、より重い重量と回数に挑戦することができます。
そして最も大きいメリットは最小限の心理的疲労、倦怠感です。倦怠感は最も過小評価されているトレーニング要素のひとつであり、最新の科学的研究はトレーニングパフォーマンスの多くはこの心理的な要因が関わっていると示しています。
例えば懸垂を月曜日にやって自重が5回上がり、次の日また懸垂をしたら4回しか上がらなかったという経験を多くの人がしたことがあると思います。これを今までは「筋肉が回復できなかったから」「神経系が回復してなかったから」と考えられていましたが実は筋繊維や神経系は24時間もあれば簡単に回復し、このパフォーマンス低下は心理的な疲労によっておこるものである可能性が高いことがわかっています。
心理的なストレスが高くなるのはハードに追い込むことや休憩時間を極端に短くすること。ただし、キツくなるまでやることは高重量に挑戦するときは避けては通れません。しかし、DeLormeプログラムはキツイセットがたった1setしかないので普通に高重量で3setやるよりもかなり心理的な疲労を抑えることができます。
それでは実際の筋力アップメニューについて紹介します。
懸垂を伸ばしたいなら特異性の原則があるため出来るだけ多く挑戦したほうが良いですが、他の種目との兼ね合いもあるためおすすめとしては最低でも週に2回懸垂するようにしましょう。
そして、一定の重量が目標回数上がったら重量を追加するというのが一番シンプルで多くの人にはわかりやすいと思います。例えば自重70kgの懸垂が5回できたら次回は1.25kg加重して71.25kgで5回を目指すというやり方です。
次のポイントとして月水と懸垂をやるとするなら月曜日と水曜日の目標回数を変えるのがおすすめです。研究によると被験者にLPグループとして1~4週間を8rep,4~8週間を6rep,9~12週間に4rep実行するグループと、DUPグループとして月曜日8rep 水曜日6rep 金曜日4repを12週間行うグループで比較したところベンチプレスの増加率はLPが+14.4%,DUPが+28.8%でありDUPが2倍の筋力アップ効果がありました。
そのため、ずっと5回にするのではなく月曜日は5回、水曜日は8回というように回数を変更させるとより力が伸びやすくなる可能性があります。
懸垂にはゴムチューブを使ったり、ジャンプして体を降ろす時だけゆっくりやる方法もありますが基本的には停滞などしていなければ伸ばしたいタイプの懸垂をやるのがベストです。つまり、筋肥大のためには普通の懸垂がベストであるため普通にチートなどを使わずに一般的な懸垂で行いましょう。
特にジャンプしてゆっくり降ろす方法は特異性の原則や筋肉の緊張時間の研究を見ても筋肉の成長にとって良くありません。
懸垂までのルーティンとしてはまずは関節を動かす動的ストレッチによって関節と筋肉を温めましょう。
動的ストレッチとパフォーマンス、ケガのリスクについてのレビューペーパーには動的ストレッチはパフォーマンスを上げてケガのリスクを減らすことを示しています。大体1分くらいでもOKなので腕を回して肩関節に関わる背中の筋肉の準備をします。
そして、DeLormeプログラムを行います。ベンチプレスだと100kg目標回数なら50kg,75kgと簡単なのですが懸垂はウエイトプレートを重ねるだけで重量調整はできないので懸垂のアシストマシンを使ってウォームアップセットを行ったりラットプルダウンで目標重量に設定して1~2セット目を行ってください。
メインセットの3set目以外はそこまで重要ではないため細かく重量やトレーニング種目にこだわらなくてもOKです。
そしてメインセットに移ります。必ずストレッチと収縮を意識してください。きつくなってくると肩がすくみやすいことに注意しながら行いましょう。背中の力だけを使うためにもストラップなどを使って握力を補助してくれるアイテムを使うとパフォーマンスが向上する可能性があります。
2022年の10月に公開された最新のレビューペーパーによると最大筋力の改善のためにはポーズは必要ないと示されているためストレッチ部分で一時停止したりフィニッシュで一時停止する必要はありません。可動域が最大なら自分の最もやりやすいテンポでOKです。
ただし、体を下す時に完全に力を抜いてしまうのはおすすめしません。同じレビューペーパーでは最大筋力については1repの合計で3~5秒、コンセントリックよりもエキセントリックのほうが時間のかかるテンポが最適であると示されているため持ち上げるスピードよりもゆっくり体は下に下げましょう。
そしてメインセットが終わったら何キロが何回出来たかをノートやスマホのメモアプリに記録しておくと次回懸垂をやるときに目標がどれくらいだったかを簡単に把握することができます。
懸垂を伸ばせば間違いなく広背筋、背中の広がりは劇的に変わります。フォームは正しいものというのが大前提でどんどん高重量に挑戦していってください。