大胸筋上部の発達が遅れることは多くの人によっておこりやすい問題です。
原因としてこの部位は研究データによって中部や下部よりもはるかにサイズが小さく、トレーニングによる増加もわずかであることがわかっています。
そのため、トレーニングでは上部を狙った種目を入れることで全体的にバランスの取れた大胸筋になりますが、実は上部が遅れている人に上部の種目をたくさんやらせても効果がないことがほとんどであり、正しいアプローチをしなければ意味がありません。
この記事では科学的なデータを基にした大胸筋上部の厚みを構築する方法と発達しづらい人に絶対やってほしい筋トレ法、おすすめの筋トレメニューについて紹介します。
大胸筋上部は腕の付け根あたりから鎖骨に伸びる鎖骨頭のことを指すことがほとんどです。筋繊維の方向的には腕の付け根から鎖骨という斜め上に向かっているため、大胸筋上部は下から上にウエイトを引っ張る運動で活性化されます。
この運動は肩関節の屈曲と呼ばれるものでフロントレイズのような運動を指します。しかし、調査によると大胸筋は水平内転という腕を閉じる運動で内部モーメントが最大になり、筋肉が活性化されるため大胸筋上部を鍛えるときは肩関節の水平内転と屈曲を組み合わせるのが最も効果的です。
大胸筋上部を狙う種目として代表的なものは屈曲を強くすることです。
最も代表的な大胸筋上部のトレーニング法はベンチに傾斜をつけることです。傾斜をつけることで真っすぐ持ち上げているように見えても屈曲が加わっています。かなり多くの研究でベンチ台に傾斜をつけることで大胸筋上部の活動を増やせることが示されています。
大胸筋上部にとって最高の角度はベンチ角度おおよそ30~45度だと考えられます。2010年の筋電図分析ではベンチ角度44度が最も大胸筋の活動が高いことが示されていますが、別の研究ではピークが30度であることが示されているため一貫性がありませんが屈曲運動の筋肉の活動を調べた科学的なデータによると、屈曲は大胸筋上部よりも三角筋前部に処理される傾向が強いためあまりにベンチ台の角度がきつすぎると大胸筋上部にとって逆効果になる可能性があります。45度を超える角度はおすすめしません。
インクラインプレスの時に大胸筋上部が地面と平行にしなければならないと教えられた人もいるかもしれませんが、大胸筋上部を狙うときはそこにこだわる必要はなく屈曲の運動がどれだけあるかに注目するほうが重要です。上部が地面と平行じゃなくても屈曲があれば大胸筋上部は活性化されています。
2つ目はベンチプレスのグリップを狭くすることです。
1995年の古い研究ではワイドグリップのベンチプレスよりもナローグリップのほうが大胸筋上部の活動が強いことがわかりました。これはナローグリップのほうがワイドグリップよりも屈曲運動が強くなるためです。バーベルを下ろしている位置がナローのほうが足方向であることがわかると思います。
大体肩幅と同じくらいの手幅でやると上腕三頭筋に逃がすことなく大胸筋上部を鍛えられます。
そして3つ目は、最も大胸筋上部を活性化させるトレーニングのひとつにリバースグリップのベンチプレスがあります。これはリバースグリップにすることで脇が閉じて屈曲運動が強くなるためです。2005年の研究ではワイドグリップのリバースグリップは一般的なベンチプレスよりも大胸筋上部の活動が20%増加したことを示しています。インクラインのプレスは大胸筋の上部は5~10%程しか上げられない結果になることがほとんどであるため、上部を狙うときはインクラインのプレスなどよりもリバースグリップのバーベルベンチプレスが最も効果的である可能性があります。ただしこの種目の注意点はインクラインベンチのプレスよりも圧倒的に研究データが少ないです。2005年のこの研究以外でリバースグリップベンチプレスの筋電図分析はほとんど見たことがありません
さらにこの研究には結果に影響を与える可能性のある欠陥があったようです。そのため、リバースグリップベンチプレスは大胸筋を最も活性化させられる可能性がありますが信頼性は高いとは言えません。
そしてあまり知られていない方法ですが、最もおすすめなのが上部をうまく使えるようにすることです。大胸筋上部の発達が遅れていると悩んでる人でインクラインのプレスなどをしていないという人はかなり少ないのではないでしょうか。上部を狙った種目をしていなくて上部が遅れているならまずは上部を狙った種目をやってほしいですが、おそらくほとんどの人はインクラインプレスをしてるけど、リバースグリップのベンチプレスしてるけど大胸筋上部が成長し無くて悩んでる人だと思います。
そういった人はトレーニングで大胸筋上部を働かせること自体が少し苦手な可能性があり、インクラインのプレスをしたり、効かないからといってベンチ台の角度を急にしても上部の活動は変わっておらず腕や肩など他の部位に逃げてしまってることが多いです。
こういった人は上部を狙った種目をたくさんやるというよりもまず最初に筋肉と神経系のつながりを深くすることが重要です。
大胸筋上部を活性化させる方法、ひとつ目はマインドマッスルコネクションを使うこと。大胸筋上部が成長しにくいのはトレーニング不足というよりも大胸筋上部をうまく意識できない人が多いことが原因の可能性が高いと先ほど話しました。ブレットコントレラス博士は大胸筋上部にフォーカスする方法についてフラットベンチで10~15repの重量、マインドマッスルコネクションを使用するとうまくいくと話しています。マインドマッスルコネクションは簡単に言うと筋肉に効かせるというものです。このテクニックは大胸筋上部を働かせることが苦手な人にとってはおすすめです。
同じく博士が行った筋電図分析では275ポンドのフラットベンチプレスよりも225ポンドのベンチプレスのほうが大胸筋上部の活動が有意に高いことがわかりました。あまりに重い重量だとマインドマッスルコネクションを使う余裕がないので10rep以上できる重量で上部に効かせるようにプレスをすると大胸筋全体を鍛えながら上部を強く活性化できます。
ふたつ目はニューロメカニカルマッチングを使うことです。
2020年のポーランドで行われた研究では27人の男性にバーベルベンチプレスを行わせて筋電図を測定しました。結果として筋肉の活動には個人差があり、大胸筋を最も活動させた被験者もいれば上腕三頭筋が強く働いた被験者、三角筋前部が最も働いた被験者もいました。
このように筋肉の活性化にはある程度の個人差があり、バーベルベンチプレスよりも腕立て伏せやダンベルプレスのほうが大胸筋の活動が高く得意な人もいます。
この研究には次のステップがあり、被験者に弱点部位のアイソレーション種目を行うよう指示しました。つまりベンチプレスで大胸筋が一番活性化できなかった人は大胸筋のアイソレーショントレーニング、上腕三頭筋の活動が一番低い人は上腕三頭筋のアイソレーションという感じです。
6週間後、もう一度ベンチプレスを行った結果、全てのグループはアイソレーショントレーニングをした部位の筋活動が上昇していました。大胸筋のアイソレーションを6週間やった被験者はベンチプレスでの大胸筋の活動を上昇させることができました。
そのため、大胸筋上部が成長しにくい人はそもそもこの部位を意識して動かすことが苦手な場合が非常に多いです。その場合はインクラインのプレスをたくさんしても肩に逃げる可能性が高く、上部よりも肩が発達することになります。まずは上部のアイソレーショントレーニングをして上部を意識する練習をするとフラットベンチプレスやインクラインのプレスでの大胸筋上部の活動が大幅に高くなり、劇的に上部が成長しやすくなる可能性があります。
大胸筋上部を成長させる筋トレメニューは2つのパターンに分けます。みなさんはどっちのパターンか確認してください。
ひとつ目のパターンは大胸筋のバランスはそこまで悪くない人。外見的にも大胸筋上部がかなり遅れているっていうワケではないけど大胸筋のバランス的にも上部を狙った種目もやりたい人。
まず最初のパターンの人は緩やかなインクラインのプレスをすることを推奨します。大胸筋上部を鍛えるときに最も多いミスが上部にこだわりすぎて他の部位を疎かにすることです。例えばインクラインのベンチ角度について調べた研究でも上部は30度が最高の値ですが、中部と下部は非常に筋肉の活動が低下していることがわかります。
フィットネスの研究者であるmenno henselmansは多くの人は下部と中部を無視していると話すようにリバースグリップのベンチプレスのように屈曲が強すぎるのもs大胸筋のバランスを考えるとあまり良くないですし、三角筋前部の活動もかなり強くなるため肩のバランスも悪くなる可能性があります。
大胸筋の厚みをバランスよく作るためには上部,中部,下部を40%:30%:30%くらいの意識で、少しだけ大胸筋上部を優先させるくらいにトレーニングするのがおすすめです。
そのため、ベンチ角度15度くらいのインクラインのプレスを推奨します。最もおすすめなのはダンベルのプレスです。ダンベルはバーベルよりもストレッチポジション可動域、そして水平内転にメリットがあります。ストレッチポジションと可動域が広いこと、水平内転運動が強いことは大胸筋の成長にとって間違いなくプラスであることが多くの研究データによって明らかになっています。
インクラインのプレスにはこういったマシンのものもありますがこれは可動域が固定されているので大胸筋のストレッチを感じる前に負荷が無くなってしまうことが良くあります。
全てのトレーニング、特にインクラインのダンベルプレスでは十分にダンベルを下に下げてストレッチさせます。20kg30kgのダンベルでトレーニングしてる人でウエイトを全然下げてない人が非常に多いので注意してください。
スポーツサイエンティストのmike isratel博士は大胸筋のトレーニングが10setだとすると2~3setを上部に当てる必要があると話しています。そのため、1/3のほどは大胸筋上部を意識した緩やかなインクラインのダンベルプレストレーニングをするのがおすすめです。
もう一つは上部が遅れてる感じがしている人。大胸筋上部のトレーニングを試してたくさんやってるんだけどなかなか成長しない人や効いてる感覚がない人。
そして上部がなかなか成長しなくて大胸筋のバランスが良くならないという人。この人は単純に大胸筋上部を働かせることが少し苦手なだけでトレーニングが悪かったり成長しづらいわけではありません。まずは上部をうまく使うことが重要であり、これを習得せずにインクラインプレスをしても上部よりも三角筋前部を鍛えることになります。
最初はlow to high、下から上に引っ張るケーブルクロスオーバーをしましょう。まずは一番下から。そこから大胸筋上部に効かせられるようになったら上にあげていき、最終的にはほとんど屈曲ナシの水平内転のみで上部が効かせられるようになることが目標です。このレベルまで行けば緩やかな角度のベンチプレスやフラットベンチプレスでも上部を十分鍛えることができます。