上腕二頭筋のトレーニングを行っている人は多いですが、上腕二頭筋トレーニングほど間違った鍛え方が流行している筋肉はないと思います。インターネット上で推奨されているトレーニングが筋肥大にとって非効率的だったり、最新の科学的なデータを見てみると上腕二頭筋にとって代表的な種目が実は筋肉の成長にとってあまり良くなかったりします。
今回は科学的な根拠を基に上腕二頭筋の正しい鍛え方を紹介します。
上腕二頭筋はその名の通り2つの筋肉から構成されています。内側にある短頭と外側にある長頭です。2つに共通している運動は肘関節の屈曲であり腕を曲げる運動で上腕二頭筋は収縮し、刺激を受け取ります。上腕二頭筋はほぼこの運動が支配的であるため、どんな運動よりもこの肘を曲げる運動が重要です。
そのため、上腕二頭筋トレーニングで最も重要なのは肘関節の屈曲であるためこの解剖学的な運動は必ず取り入れる必要があります。
加えて長頭は肩関節にもまたがる筋肉であるため肘を曲げる運動に加えて肩関節の屈曲に関係します。フロントレイズのような腕を上にあげる運動でも上腕二頭筋の長頭は活性化されています。
意外と知られていないのが上腕二頭筋は3関節筋であることです。肘関節と肩関節に関わりますが、上腕二頭筋は前腕にもまたがっているため手首の運動でも活動します。ダンベルをひねることで上腕二頭筋の短頭がより強く刺激されます。
上腕二頭筋の筋肉は片腕ひとつずつしかありませんが肘を曲げる筋肉、肘の屈曲筋はいくつも存在しカールトレーニングでも上腕二頭筋だけでなく上腕筋、腕橈骨筋が強く活性化するため、カールトレーニングで多くの筋肉を鍛えることができます。
上腕二頭筋を作り上げるときに重要なのは、この筋肉は遺伝的な要因が外見に大きく関係する筋肉の一つでもあるということです。筋肉が短くピークを作ることができる人もいますが筋肉が長く、全体的に丸くなる人もいるため同じトレーニングをしても上腕二頭筋の成長にはある程度の差が出ることに注意してください。上腕二頭筋のピークがある人はトレーニングによることはもちろんですが遺伝的な要因もかなり強いです。
解剖学的な部分を理解したところで上腕二頭筋の鍛え方について紹介します。実は上腕二頭筋の鍛え方は非常にミスが多くトレーニングしている人の9割はミスしていたりもっと効果的なトレーニング法があるといってもいいです。
まず第一に上腕二頭筋は先ほど話した通り長頭と短頭があります。上腕三頭筋の場合はプレストレーニングでは長頭は成長しないので肩関節の伸展を使ったトレーニングが必要でした。これは科学的な研究によっても明らかです。つまりこの理論から言うと上腕二頭筋の長頭も懸垂などのトレーニングではあまり刺激されておらず、肩関節の屈曲を使った種目を取り入れるべきであるのかという疑問がわいてきます。しかし、答えはノーです。
確かに2009年の上腕二頭筋についての筋電図分析ではダンベルカール中の肩の位置に注目しました。ひとつ目は一般的なカールよりも腕が体の後ろにあるインクラインダンベルカール、そしてもうひとつは腕が体の前にあるダンベルプリチャーカールです。
この2つで筋電図分析を行った結果、腕が体の後ろにあるトレーニングは上腕二頭筋の長頭が強くストレッチし、可動域全体で長頭が活発でした。そして、プリチャーカールでは上腕二頭筋の短頭がアクティブでした。
しかし、menno henselmans博士は上腕二頭筋の鍛え方についてのインタビューで上腕三頭筋は3関節筋ではあるが肩関節の位置や動きで長頭や短頭の活動は大きく変わることはなくプログラムは非常に単純でカールトレーニングを組み込めばいいようです。
上腕三頭筋はプレスでは肩関節の伸展がなく、長頭が成長しにくいのでトレーニングでは長頭を狙ったトレーニングをするべきでしたが上腕二頭筋にはそのような傾向はなく、単純に肘が体の横にあるカールをするのが上腕二頭筋の全体的な発達には効果的のようです。
2001年の筋電図分析でも肩関節の屈曲が上腕二頭筋の長頭を強く活性化させる運動ではない可能性を示しています。
そのため、上腕二頭筋トレーニングでは短頭狙いと長頭狙いに分ける必要性はあまりなく、上腕二頭筋全体を活性化するようなカールトレーニングをたくさん行いましょう。どうしても短頭をもっと強調したい場合はダンベルカール中に手首をひねったりするのもいいと思いますが、実は上腕二頭筋の成長に理想的な種目は非常に少ないため長頭狙いや短頭狙いを作るよりも数少ない効果的な種目をたくさんやるほうがベストだと思います。
上腕二頭筋のカールグリップについては手のひらを上に向ける回外グリップ、手のひらを向かい合わせにするニュートラルグリップ、手のひらを下向きにする回内グリップがあります。上腕二頭筋に負荷を集中させるために手のひらを上に向けることを推奨します。
カール中に前腕の筋肉が支配的になれば上腕二頭筋の活動は弱くなります。menno henselmans博士によると最も効果的なのは回外グリップ、次にニュートラルグリップ、最後に回内グリップです。ダンベルのカールでは回外グリップよりもニュートラルグリップを使うことでカンタンに持ち上げることができますがこれは前腕の筋肉が大きく働くためです。
そのため、前腕を鍛えたい場合はニュートラルグリップ、上腕二頭筋を鍛えたい場合は回外グリップがいいようです。
上腕二頭筋トレーニングの最も代表的なミスはストレッチを殺すことです。よくあるのが負荷を残す鍛え方、カール中に肘は完全には伸ばさずにあえて少し曲げておくというものです。そして他にもよくあるトレーニングが上腕二頭筋を曲げたままほぼ肩関節の屈曲のみでウエイトを持ち上げること。
これらの上腕二頭筋トレーニングは最低の筋トレ法といってもいいです。2021年の10月31日に公開されたレビュー研究ではまずは可動域は広いほうがいいコトに加えて、同じ可動域でもストレッチポジションがある場合とない場合ではストレッチポジションがある方が筋肥大効果はそれ以上の効果である可能性が高く。最低でもストレッチがない場合と同じ効果であると示しています。
2021年の9月に行われた研究では同じ可動域で片腕の上腕二頭筋カールトレーニングを実行させました。片方のグループは0~50度のストレッチポジションのみのカールを行い、もう片方は80~130度の収縮部分のみのトレーニングを行いました。研究期間後、収縮部分のみのトレーニングを行ったグループは上腕二頭筋と上腕筋のサイズが平均3.4%増加していました。一方ストレッチポジションのみを行ったグループは平均して筋肉のサイズが+8.9%増加していました。
つまり、上腕二頭筋をを成長させるためにはストレッチポジションが特に重要であるため肘を伸ばさないトレーニングは成長を大きく制限します。特にフリーウエイトのプリチャーカールをやってる人で肘をしっかり伸ばしてやっている人はあまり見たことがありません。それくらい筋肉の成長にとって最悪のトレーニングが広まっています。肘を完全に伸ばさなければ重い重量を扱えて、パンプはあるため気分はいいですがリアルで筋トレ効果は半分以下になります。
科学的なデータを見るとパンプは筋肉の成長にとって重要という証拠は非常に不足しています。パンプを優先させても筋肉は成長しません。
そして、これが最も多いミスですが種目選びが悪く気づかずストレッチを殺してしまっている場合。広い可動域でトレーニングしている賢いトレーニーでも陥りがちなミスです。まず結論から言うと、フリーウエイトのダンベルやバーベルカール、ケーブルマシンにカラダを向けた状態で行うケーブルカール、ダブルバイセプスポーズのようなケーブルのカール。これらの種目は筋肉の成長にとって効率が非常に悪いためやるべきではありません。
menno henselmans博士も自身の記事で「鏡の前に立った状態のダブルバイセップスポーズのようなカールは上腕二頭筋よりもエゴを鍛えてる可能性が高いことを忘れないでください」。と示しています。ss
この理由は種目に存在しているストレッチ不足です。例えばフリーウエイトのカール、スタートポジションで肘は伸ばしていても上腕二頭筋はストレッチしているでしょうか。実際はスタートポジションでのストレッチは非常に弱いです。これは上腕二頭筋は肘関節の屈曲であり、人間の体は関節を軸にした円運動であるため上腕二頭筋をストレッチさせるためにはある程度横向きの力がかかっている必要があるからです。フリーウエイトは一貫して垂直に下向きであるため上腕二頭筋の負荷はスタートポジションで何も持っていない状態とほとんど変わりません。
2022年の4月6日に新しくレビューペーパーが発表されました。この研究では腕と脚についてコンパウンド種目とアイソレーション種目、それぞれの筋肥大効果についての研究をまとめて結論を出しました。結果としてコンパウンド種目もアイソレーション種目も筋肥大効果には差はなくコンパウンド種目でも同じように筋肉を成長させられることを示しています。
コンパウンド種目の腕への影響は非常に過小評価されており、コンパウンド種目ではあまり成長しないように考えられていますがお互いの筋肥大効果はあまり変わりません。とはいってもどんなコンパウンドとアイソレーションも筋肥大効果が同じわけではありません。
重要なのは可動域、ストレッチの強さと物理的な負荷です。一般的なフリーウエイトカールは可動域と物理的な負荷は理にかなっていますがストレッチは非常に弱いです。これに比べてロウトレーニングの場合、上腕二頭筋はスタートでストレッチされていません。物理的な負荷もロウは上腕二頭筋の運動がやや横向きであるため筋肉の成長にとって理想的な向きではありません。
ラットプルや懸垂の場合、フリーウエイトのカールと同様、上腕二頭筋はストレッチされていませんが物理的な負荷は理想的であり、可動域も広いです。この場合はロウはフリーウエイトカールよりも効果は低いですがラットプルや懸垂はフリーウエイトカールと同じような効果である可能性があります。
実際筋肥大効果を測定した研究でもこの通りの結果が出ています。
2019年に行われた研究ではダンベルのロウとカールを被験者に行わせたところ筋肥大効果はダンベルのカールグループのほうが二倍近く筋肉を構築できました。
ただし、2015年の研究では被験者にラットプルダウンとバーベルのカールを行わせたところグラフの通り筋肥大効果はほぼ同じであり、ほんのわずかでラットプルダウングループのほうが優れていました。
そのため、肘を伸ばしていない可動域の狭いカールは論外として、広い可動域でやっていてもストレッチの弱いカールトレーニングはラットプルダウンや懸垂とほぼ筋肥大効果は同じになる可能性が高いです。むしろラットプルダウンなどは背中など多くの筋肉を鍛えるため、カールトレーニングよりも効率的にボディメイクができます。
プリチャーカールの場合腕が傾いており、スタートで上腕二頭筋に対して横向きに負荷がかかることで強いストレッチを生み出しますが、上部ではほとんど負荷がないため実質的な可動域が狭く、筋肉自体をあまり活性化できません。筋肉の活性化を調べた研究でも上腕二頭筋の活性化は順番で言うと下位の傾向にあります。
上腕二頭筋トレーニングはフリーウエイトでは基本的にやるべきではないでしょう。
先ほど話したようなフリーウエイトのダンベルやバーベルカール、ケーブルマシンに向いた状態で行うケーブルカール、ダブルバイセプスポーズのようなケーブルのカール。これらの種目はボトムでのストレッチが非常に弱いため上腕二頭筋はもちろん成長しますが懸垂やラットプルダウンとほとんど効果は変わらない可能性があります。
ストレッチがない種目を選ぶくらいならコンパウンドをやったほうがいいでしょう。
上腕二頭筋トレーニングではストレッチのかかるものを必ず選びましょう。おすすめの種目としてケーブルのカールを推奨します。ケーブルマシンに背を向けた状態になり、肘を体の横にくっつけて引っ張ります。ケーブルの高さは一番下かそれより少し上のあたり。スタ
ートで必ず横向きの負荷が入るようにしましょう。少しだけマシンから離れるとストレッチがかかりやすいです。
スタートでは腕とケーブルが直線にならずに少し角度がついていることが必須です。これが真っすぐだとフリーウエイトカールやケーブルマシンを向いた状態のカールのように上腕二頭筋のストレッチはなくなります。そして肘は伸ばして上腕二頭筋を必ずストレッチさせましょう。
可動域全体で上腕が前に出たり後ろに引っ張ったりせず動かないように注意しましょう。
家トレでケーブルマシンがない人はゴムチューブを使ってトレーニングしましょう。こっちのほうがフリーウエイトのカールよりもはるかに効率的です。基本的にはこれらのストレッチのかかる種目をたくさんやるのがベストです。
上腕二頭筋のカールトレーニングでは多くの人は10kg以上のダンベルを扱いたがりますが、実際はフルレンジモーションとストレッチを筋肉にかけていればそんなに重い重量は扱えません。
ケーブルのカールでも正しくやれていれば片方10kgも扱えないと思います。10rep程度の回数でやるなら3~8kgくらいの重量で十分筋肉を活性化できます。
多くの人はコンパウンドの腕への影響を過小評価しているため懸垂10set,上腕二頭筋10setやりがちです。しかしそれは背中10set、上腕二頭筋20setであることを意味するため腕ばかり発達しやすくなります。筋肉のバランスのためにも背中のトレーニングは上腕二頭筋の1.5~2倍のボリュームを確保することを推奨します。
背中が20setなら10~15setですね。トレーニングの質を高めるためにも高頻度でトレーニングすることを忘れないで下さい。腕の日を作って集中的にやるのは非常に効率が悪いです。
上腕二頭筋のカールで重要なのはストレッチ。ストレッチの弱いカールは懸垂などとほとんど変わらないため、上腕二頭筋はカールやゴムチューブを使うべきです。このことを知っている人はほとんどいないでしょう。ダンベルからケーブルに変更するだけで上腕二頭筋の成長は周りと全く違うものになります。