大胸筋トレーニングで皆さんどんな種目をやっているでしょうか。ケーブルフライ、ディップスなど大胸筋トレーニングにはかなり多くの種目がありますがほぼすべての人がやってるのはバーベルのベンチプレスとダンベルのベンチプレスでしょう。
それでは大胸筋を成長させるためにはバーベルプレスとダンベルプレスどっちが効果的でしょうか。
バーベルとダンベルそれぞれにメリットがありますが大胸筋をどちらが効率的に成長させるかと言ったらダンベルのプレスだと思います。この記事ではその理由と正しいダンベルプレスのテクニックについて科学的な証拠から紹介します。
ダンベルプレスとバーベルプレスの運動はほとんど同じです。まずは腕を開いた状態から閉じることで肩関節の水平内転を使います。これにより大胸筋が収縮します。これに加えてプレスで肘を伸ばすことで腕にある上腕三頭筋も収縮します。
そしてプレス動作では肩にある三角筋前部も収縮します。特にワイドグリップにするとダンベルと肩の距離が離れるため肩へのストレスも強くなります。そのため、フライではなくプレスの場合はあまりワイドにはせずに体のすぐ横にダンベルがあるという広さが最も安全で効果的です。
ベンチプレスのプレス動作は大胸筋と上腕三頭筋,三角筋の前部を鍛えるコンパウンド種目です。一度に多くの筋肉を鍛えられるため時間が無い人などに特に適した種目です。
それでは科学的な証拠からどちらが優れているか。まずは科学的な筋電図分析から見てみましょう。筋トレの代表的な筋電図分析であるバスキーの2000年に行われたEMG研究では10人の筋トレ経験者に大胸筋のEMG分析を行わせました。
結果はこちらのグラフにある通りバーベルのベンチプレスのほうがおおよそ20%ダンベルプレスのベンチプレスよりも大胸筋をアクティブにできることを示しています。
しかし、2017年の研究では19人の男性を対象に筋電図分析を行います。ベンチプレスをダンベル,スミスマシン,バーベルで比較しました。その結果このグラフにある通り、大胸筋の活動はダンベルが最も高くほとんど差が無くてスミスマシン、そして少し空いてバーベルのベンチプレスでした。
そしてこれはブレッドコントレラス博士の大規模なEMG研究でも再現されています。ダンベルのプレスはバーベルよりも全体的に大胸筋をより活性化させてくれる可能性がありますがあることを示しています。
そのため、ダンベルとバーベルのプレスは一貫した科学的な根拠がありません。そのため、筋電図のみを見てどちらがいいかを決めるのは不可能でしょう。
しかし、EMG研究、筋電図分析は完璧な筋トレ効果を測定する方法ではありません。もちろん筋肉の活性化は筋肉を発達させるうえで非常に重要な要素であることは間違いありません。そのため、筋電図分析の穴を見つけたからといって筋電図分析を否定するのはあまりのも愚かだと思います。ただし、筋電図分析の結果はそのまま筋肥大効果に必ずしも直結するものでないことに注意しましょう。
筋電図分析ではバーベルとダンベルどちらが優れているかは微妙ですが筋電図分析では測定されていないポイントを見るとダンベルプレスのほうが優れている可能性があります。
ダンベルプレスのほうが大胸筋を成長させる理由としては2つあります。ひとつ目は可動域です。
バーベルのベンチプレスの場合、ウエイトを下げたときに自分の大胸筋とバーベルが接触したポイントでストップします。
しかし、ダンベルはどうでしょうか。バーベルのようにウエイトを下に下げたときに体に当たって可動域がストップするポジションがありません。加えてバーベルはグリップの広さが一定です。肩幅の広さにしたらスタートからフィニッシュまでグリップの広さは肩幅と同じです。ダンベルの場合はフィニッシュの時にダンベル同士をくっつけることができるので水平内転の距離が長くなり、より大胸筋が収縮します。
最新のレビュー研究で示されている通り、科学は広い可動域のほうが筋肥大効果が高いことを認めています。そして、ストレッチも重要です。2021年の9月に行われた研究では同じ可動域で片腕の上腕二頭筋カールトレーニングを実行させました。片方のグループは0~50度のストレッチポジションのみのカールを行い、もう片方は80~130度の収縮部分のみのトレーニングを行いました。研究期間後、収縮部分のみのトレーニングを行ったグループは上腕二頭筋と上腕筋のサイズが平均3.4%増加していました。一方ストレッチポジションのみを行ったグループは平均して筋肉のサイズが+8.9%増加していました。
そのため最新の科学は広い可動域とストレッチポジションが重要であることを示しています。
このことからも示されているとおりダンベルのプレスはバーベルよりも可動域が広く、加えてスタートではよりウエイトを下におろせることから大胸筋がストレッチします。これにより科学が裏付けている筋肥大に必要な要素が抑えられているためバーベルよりも筋肉が成長する可能性があります。
そしてふたつ目のダンベルがバーベルよりも優れている理由としてはグリップです。バーベルベンチプレスは完全にまっすぐであるためグリップもそれを強制されますがダンベルプレスの場合はそのようなことはありません。カタカナのハのようにやや脇を閉じることもできます。グリップが自由であるため手首が固い人でも安全にトレーニングできます。
特に大胸筋上部を強く刺激するリバースグリップのベンチプレスの場合バーベルは手首に強いストレスががかります。人間の関節は回外グリップのままプレスを行うことを得意にしていません。手首の柔軟性によりリバースグリップのバーベルベンチプレスはできない、重い重量になると手首が痛いという人もいると思いますがダンベルプレスの場合は回内グリップでもバーベルのようにまっすぐに強制されないため自分の関節の柔軟性に合わせた鍛え方ができます。
加えてダンベルは大胸筋の筋活動を高めるテクニックを使えます。
2010年の研究では11人の健康的な男性と9人の女性、合計20人の被験者に腕立て伏せを行わせました。それぞれワイドとミドル,ナローの3つの手幅でトレーニングを行います。これに加えて被験者は一般的な手を床につけるグリップとパーフェクトプッシュアップハンドグリップを使います。
パーフェクトプッシュアップハンドグリップは手が回転するようになっています。被験者はスタートではグリップを縦にしてフィニッシュでは横にします。筋電図分析を行った結果、パーフェクトプッシュアップハンドグリップを使用した腕立て伏せのほうがワイドとミドルの手幅で大胸筋の筋活動が向上したことを示しています。
これは解剖学的な運動を考えると理にかなっています。大胸筋は腕を閉じる肩関節の水平内転が主な運動ですが腕を内側に回す運動にも関わっています。つまり、パーフェクトプッシュアップハンドグリップを使用することで腕が内側に回転したため大胸筋の筋活動が高まったと考えられます。
バーベルではこの運動は不可能ですがダンベルの場合この運動は可能です。これにより大胸筋の筋活動がもっと増える可能性があります。
正しいダンベルプレスはまずはダンベルをしっかりしたまで下げましょう。しかし、下げることを意識し過ぎるとダンベルフライのように肩とダンベルが離れやすくなります。これは肩にとって非常に危険であるため、ストレッチポジションでも肘の真上にダンベルがあることを意識してください。
そしてフィニッシュではダンベル同士をくっつけるほどはやらなくていいですが最低でも自分の肩幅と同じくらいの広さになるまでは収縮する必要があります。
そして、最初はㇵの時にしてグリップを縦にして脇を閉じてからバーベルベンチプレスのようにグリップを横にして親指同士を向かい合わせにします。あまりにも腕を内側にひねりすぎると肩のインピンジメントを引き起こすので自分にとって快適なやり方を選びましょう。
特にダンベルプレスではある程度重い重量になるとウエイト部分が自分のカラダに当たってあまり下に下げられなくなります。縦にすることで体に当たるのを防ぎ、ストレッチを強くすることができます。この時も肩とダンベルが離れず、そして肘の真上にダンベルがあることを意識しましょう。
もちろん腕立て伏せの研究のように90度も手を回転させる必要は無いと思います。自分の最もやりやすい方法がいいでしょう。