懸垂は最も原始的で優れた広背筋ビルダーです。必要なのはあなたの体とそれにぶら下がる環境だけ。
トレーニングではこの種目をスキップしてバーベルやダンベルを持ち上げる運動を好む人が多いですが広い背中、広背筋を作るうえでとても重要な種目です。
この記事では科学的な証拠から正しい懸垂のやり方や懸垂の力の伸ばし方を紹介します。
まずは解剖学的に懸垂がどの筋肉を活性化するかです。広背筋でまずメインになるのは肩関節の内転。腕を下に下げる動作です。この運動には背中にある広背筋が強く関与します。加えてフィニッシュでは肩甲骨を寄せるため菱形筋や僧帽筋などの肩甲骨の内転に関与する筋肉もアクティブになります。
加えて肘を曲げるため肘の屈曲に関与する上腕二頭筋、腕橈骨筋、上腕筋もアクティブになります。
最後に体をまっすぐにするために腹筋もアクティブになります。
背中のトレーニングでは、特にロウのような水平プルの種目では可動域とストレッチの問題があります。しかし、懸垂では広背筋にスタートポジションで強いをかけることができるため筋肉の成長にとってプラスに働く可能性があります。
懸垂にはライバルがいます。それはラットプルダウンです。懸垂よりもラットプルダウンの方が好まれていますが僕は懸垂のほうが良い種目だと思います。
1つ目は引っ張る運動に関係する筋肉をラットプルダウンよりも刺激してくれます。例えば2013年のEMG研究によると広背筋の筋活動については有意差がありませんでしたが懸垂はラットプルダウンよりも脊柱起立筋や上腕二頭筋の活動が優位に高いことが示されています。
加えてアメリカの運動評議会によるEMG分析ではプルアップ、チンアップは広背筋に最も強い刺激を与えることが示されています。
2つ目のメリットとして加重のやりやすさです。体重にダンベルやプレートを追加するだけで簡単にローディングできます。重量設定のやりやすさはバーベルベンチプレス以上です。これによりプログレッシブオーバーロード計画もスムーズに行えるようになります。
広背筋への刺激も非常に強く、尚且つローディングもやりやすいとなればこの種目を避けるべきではありません。
2016年の研究では懸垂で使うグリップと筋肉の活性化について調査を行いました。一般的に言われる常識としてはワイドな方が広背筋の活性化が強くてナローだと腕といわれます。
本当にそうでしょうか。この研究ではグリップについて広背筋の活性化に有意な差はないことが示されています。ただ、ワイドな回内グリップのみわずかに僧帽筋の中部の活動が優れていました。
次に2010年の研究ではラットプルダウンのワイドグリップとナローグリップで広背筋の活動に有意な差はないことが示されています。
さらには2014年の研究ではナローミドルワイドの3種類で筋電図分析をした結果広背筋に有意差はないことを示しています。
おそらく懸垂のグリップ幅についてはワイドでもナローでもほとんど変わらないでしょう。少なくとも肩幅以上にグリップを広げている場合広背筋の筋活動に有意差はありません。
しかし、ワイドにすることで可動域が極端に減り筋肉のストレッチと収縮が弱くなります。さらにはグリップがかなり窮屈になることからケガのリスクも増えます。
懸垂やラットプルダウンでワイドが好まれているのはおそらくベンチプレスのワイドグリップと同じく重量が扱えるからだと思います。可動域を減らすことで沢山の重量が扱えるようになります。おすすめのグリップ幅としては肩幅の1.5倍、こぶし1つぶんくらいの広さが筋肥大にとって効果的でしょう
サムレスグリップでグリップをつかみ体を持ち上げます。この時肩甲骨を下におろし広背筋を収縮させます。そして意識してほしいのは大胸筋の上部です。この部位をバーに触れるかグリップと同じ高さにするイメージです。限界まで収縮させてから1repとカウントしましょう。非常に多いのが懸垂のパーシャルレップ。これがほんと多いです。ある程度筋力が強いように見える人でも懸垂あまりあげられない人います。恥ずかしいからでしょうかね。中途半端な位置で引っ張ることをやめないでください。マイクイズラテル博士はあごがグリップの高さを超えるべきと話していますがそれでは最大限広背筋は収縮しません。
基本的にはラットプルダウンと同じフォームです。バーを大胸筋上部にくっつけますよね。これと同じです。限界までの収縮は大胸筋上部がグリップの高さと同じ位置まで到達することです。
さらには持ち上げるときに背中を丸めないでください。これをするとより簡単に持ち上げられますが背中の力をうまく使えません。
フルレンジモーションは完全なるストレッチと完全なる収縮です。皆さんもジムでよく見かけるこんなフォーム体をしっかりおろしてもいないし引っ張ってもいないフォームです。懸垂のフルレンジモーションは中級者でもかなりきついので1repがギリギリの場合もあるかもしれません。周りに笑われたくないからこんなフォームでやってもプライドは守れるかもしれませんが背中は発達しません。
さらには体の勢いを使って持ち上げないでください。体が前後する勢いを使ってリズミカルに懸垂を行う人がいますがこれも間違っています。降ろすときに全身の力を抜くと体が前後に振られやすいので注意しましょう。
最後に懸垂を伸ばすおすすめの方法を紹介します。
とりあえず僕の懸垂の力は先ほどのフルレンジモーションとグリップはミドルで肩幅よりも少し広いくらい。大胸筋上部がグリップと同じ高さまでをフィニッシュとして背中のトレーニングは始めてちょうど2年くらい177cmで体重80kgくらいで20kg加重させて4repです。
懸垂ができない人、自重がギリギリっていう人が加重懸垂まで行くための方法について教えたいと思います。まずは特異性の原則があるので懸垂に近い運動の力を伸ばすことです。つまり懸垂に何かしらアシストをつけるのが最も効果的です。
自重の懸垂ができない人はバーにぶら下がるだけで良いという情報を発信している人がいますが完全に僕は反対です。リハビリとかならまだしもぶら下がるだけで筋肉が発達したり筋力が伸びるとは思えません。
懸垂のアシストのつけ方はマシンを使ったり抵抗バンドを使ったりする方法がありますがどちらにもメリットがあります。
まずは抵抗バンドを使った懸垂のメリットは不安定ですから懸垂に役立つ筋肉全てがしっかり鍛えられます。懸垂に最も近い運動ですので懸垂の力を改善するためには最適な種目だと思います。
対するマシンにもメリットがあります。デメリットとしてマシンを使うと固定されている台に体を接することになりますからかなり強い安定感を生みます。これが腹筋の力や体を安定させるために働く筋肉を制御してしまうことになります。
ただ、マシンの懸垂は抵抗バンドを使うよりもはるかに細かい重量設定ができます。抵抗バンドはジムにおそらく数種類しかありませんがマシンのアシストは10種類以上の設定ができます。そして、抵抗バンドを足に引っ掛けるうっとおしさもありません。
さらには懸垂と同様、CKC、クローズドキネティックチェーンエクササイズも助けになりました。CKCはウエイトを引っ張るのではなく自分の体を引っ張るものです。懸垂と同じですね。
インバーテッドロウはCKCで初心者の時に懸垂の力の向上に助けになったのでお勧めです。どういう人にいいかと言うと筋トレ始めたての初心者の人、自重での懸垂なんてまだまだ先って人ですね。懸垂とはかなり違うように見えますが動き的には結構近いです。懸垂は肩関節の内転のみを使うのではなく伸展も非常に使います。
体は斜めにして引っ張るためインバーテッドロウと同じです。できるだけ鋭角にして体の角度は30度くらいにしましょう。
目安としては筋トレ始めたての人はまずはインバーテッドロウをやるべきです。自分のカラダを引っ張るという運動を覚えておく必要があります。そして、1~2か月したらアシストの懸垂を使いだしましょう。
最初は強いアシストが必要になるのでマシンのほうをおすすめします。アシストは5kgとか10kgで十分と思う人は抵抗バンドを使うといいです。
抵抗バンドを使って懸垂をしましょう。力が強くなってきたら抵抗バンドの強さをどんどん弱くしてアシストを少なくしていきましょう。体重などにもよりますが3か月あればほとんどの人が自重での懸垂ができると思います。